見出し画像

a secret base

子どもの頃、秘密基地ごっこが好きだった。
木の繁みや大きな木の上、押入れの隅、階段の裏。
狭くてすこし薄暗い。
そんな隠れ家から見た外の世界は、不思議といつもより何かが起きそうな気配に満ちていた。

誰も知らないこっそりした場所は、誰かと暮らしていればなおさら、必要なものかもしれない。
近頃は家でもすっかりオープンスペースで仕事をするようになってしまった。
しかし、常々なんだかしっくりこないのである。

あの秘密基地のような中で本を読んだり、絵を描いたりしたら、どんなに落ち着くだろう。
こちらからは見えているのに、あちらからは見えない。
そんな安穏とした空間。

考えてみると、もうずいぶんこの家で暮らしている。
なるほど飽きるわけだ。
秘密などとうにどこかに置いてきてしまった。
隠れるには大きくなりすぎてしまったけれど、幾つになっても時に隠れたくなることはある。
いや、図体は隠れきれないとしても、気持ちだけでも隠せたら。

もうすぐ雨の季節がやってくる。
ひとり雨音と籠る、そんな場所をぜひとも手に入れたいものだ。





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?