逆襲のNPC 第3話

【P01】
夕暮れの街。第2話の最後のシーンから少し時間が経過していて、魔法使いの少女の姿はない。

ルルア
「まったく……お前という奴は。一体どこまで思い切りがいいのだ」

ネモ
「あはは。でも、これで一歩前進したじゃない」

ルルア
「それはまぁ、そうなのだが」

釈然としない様子のルルア。
ここで回想シーン。第2話の直後に戻る。

魔法使い
「なるほど、レイドイベントね。参加条件は最低二人以上のパーティー、と」

興味ありげに広告を眺める魔法使い。

【P02~03】
ネモ
「どうしてもこれに参加したいんです。でも、今は仲間がいなくって」

魔法使い
「面白そうだけど、私もやらなきゃいけないことがあるからなぁ……うーん」

ネモ(心の声)
(正直、プレイヤーには良い思い出があんまりないけど、全員がNPCに横柄だったわけじゃないんだ)
(協力してもらえるなら迷う理由はない……よね)

魔法使い
「……そうだ! だったらさ、先にこっちの用事を手伝ってくれない? そしたら君の用事も手伝ってあげる!」
「私も仲間がいた方が助かるからさ。ギブ・アンド・テイクでお互い様ってことで」

ネモ
「……っ! は、はい!」

魔法使い
「そうと決まれば、パーティー編成も済ませちゃおっか」

立体映像のウィンドウを操作してパーティーを編成。
魔法使いは慣れた手つきだが、ネモは不慣れでわちゃわちゃとした手つき。

【P04~05】
魔法使い
「これでよしっと! それじゃ、次は自己紹介ね。私はキャロル。クラスは魔法師!」

魔法使いキャロルの全身を大コマで描写。

ネモ
「ええと……魔剣士のネモ、です。こっちはコンパニオンのルルア」

キャロル
「ネモ君ね。それじゃ、今後ともよろしく!」

二人が握手を交わしたところで回想終了。

ルルア
「……だが結局、何を手伝えばいいのか聞けずじまいだったではないか」

ネモ
「しょうがないよ。プレイヤーにはあっちの世界の生活があるんでしょ」

キャロルが笑顔でログアウトし消滅する回想コマを挿入。
書き文字で「じゃーねー」など、軽くて気さくな台詞も添えておく。

【P06~07】
ネモ
「話の続きは明日の正午、中央広場で待ち合わせ」
「とりあえず、今日のところは宿を探して一休みってことで!」

ルルア
「宿?」

怪訝そうな顔をするルルア。しかしネモは気付いていない。

ネモ
「いやぁ、勢いで街を飛び出してから、まともに休んでなかったからなぁ」
「さすがにベッドが恋しくなって……」

ルルア
「待て待て。お前が泊まれる宿などあるわけがないだろう」

ネモ
「……えっ?」

大真面目なルルアと硬直するネモ。二人のリアクションを大きく描写。

【P08~09】
ルルア
「プレイヤー向けの宿屋に宿泊施設としての機能はない。ただの回復スポット兼リスポーンポイントだ」
「アバターは生物的な睡眠を必要としないし、あちらの世界の『本人』が眠るときはログアウトするだけだからな」

ネモ
「た、確かに……てことはまさか、これからずっと野宿に……?」

ルルア
「安心しろ。ちゃんと手を打ってある」

不安げなネモに、ルルアが不敵な笑みを向ける。

場面転換。街から離れた野外。周囲に他の人影はない。

ルルア
「さて、この辺りならいいだろう。メニューウィンドウの『キャンプ』コマンドを選択してみろ」

指示通りにウィンドウを開き、コマンドを選択するネモ。

【P10~11】
目の前に大型のテントが出現。ちょっとした小屋サイズ。

ネモ
「うわっ!?」

ルルア
「これ自体は全プレイヤーの共通機能だ。入ってみろ」

テントの中はかなりしっかりした作り。グランピング用のテントを思わせる。

ネモ
「凄っ……!」

ネモがテントの中を見渡している間、ルルアは自慢げに解説をする。

ルルア
「本来であれば、ログアウトしたプレイヤーは最後に立ち寄った街の宿屋か、最初のログインに使用したアセンブリ・タワーからプレイを再開することになる。そのどちらかでしかアバターを再生成できないからだ」
「だが、探索中にログアウトしただけで、いちいち街から仕切り直しになるのは不便だろう?」

ベッドの縁に腰掛けるルルア。

【P12~13】
ルルア
「そこで役に立つのが、このキャンプ機能だ。この中でログアウトした場合、アバターは消滅せずに残り続け、再びログインしたときにはここから再開できる」
「もちろん、準備を整えるための休憩所としても利用可能だ。プレイヤーもモンスターもテントには危害を加えることができない。完全な安全地帯だ」
「私はそれに改造を加え、協力者の人間が生活できる住居としての機能を与えた」
「水と食料が続く限り、何日でも快適に生きていくことができる。これさえあれば、宿屋など不要だ」

ネモ
「そんなことまで……凄い、神様みたいだ……」

ルルア
「みたいではない! 知恵の女神だ! もっと崇めよ!」

そのとき、ネモの腹が空腹で音を鳴らす。
怒りも消えて、くすりと笑うルルア。

ネモ
「……昨日から、ろくに食べてなかったからなぁ」

ルルア
「そうだったな。食事にするといい」

【P14~15】
テーブルに並べられたサンドイッチと水筒。
それぞれHP回復アイテムとMP回復アイテムである旨を表記する。

ネモが小さなバッグに腕を肩まで突っ込んで、二本目の水筒を引っ張り出す。
明らかにバッグの奥行きを無視したところまで腕が入っている。

ネモ
「凄いな、これ! いくらでも入るし、重さも全然感じない……」

ルルア
「インベントリ・バッグ。それもプレイヤーの共通装備だ」
「ゲームマスターがアイテムと認定したものに限り、サイズも質量も無視して収納できる。腐敗も劣化も防ぐ優れモノだぞ」

ネモ
(なんか嬉しそうだな……)

ルルアの反応を訝しがるネモ。しかし口には出さず別の話題に移る。

ネモ
「そういえば、プレイヤーの回復アイテムって普通に食べても大丈夫なのかな」

ルルア
「問題ない。アルカディア・オンラインのシステムのほとんどは、元々この世界にあったものを流用して作られている。食料タイプの回復アイテムも、原材料はお前達が普段から食べている食材だ」

ネモ
「ふぅん、なるほどね。プレイヤーのアイテムなんか食べたことなかったからなぁ」

興味深そうにしながら食事を始めるネモ。

【P16~17】
食事をしながら会話の続き。ルルアは水だけを取っている。

ネモ
「ということは、ひょっとしてこのテントやバッグも?」

ルルア
「無論だ。そもそもの話、アカウントやアバターのシステムからして、この世界の神の力が原型になっているからな」

ネモ
「神……?」

ルルア
「……私を含む神々は、ゲームマスター達に敗北した。私は母上に逃され、潜伏を続けながらレプリカントの研究に没頭していたが……他の神々がどうなったのかは、分からない」
「生き残って軍門に下ったのか、殺されて権能を奪われたのか……いずれにせよ、ゲームマスターは神の力を利用している。それだけは間違いない」
「だからこそ、私もたった三年でアカウントの偽造品を作ることができたんだ。よく見知った仲間の能力の応用だったからな」

ルルアの悲しげな独白を、ネモは静かに聞き終えてから、優しい態度で口を開く。

ネモ
「だったら、何としてもレイドバトルに参加しないとね。初めての手がかりなんだから」
「それで他の神様も仲間にできたら、ゲームマスター撃破に一歩前進だ! ……ってね?」

ルルア
「……そうだな。ああ、その通りだ」

少し嬉しそうに微笑むルルア。ページ左の最後に場面転換を示唆するコマを挿入。

【P18~19】
場面転換。人気のない岩山。頂上付近には古びた塔。
ネモとルルアとキャロルの三人は、岩山の麓から塔を見上げている。

キャロル
「処刑人の塔。物騒な名前だけど、実際には何の変哲もない小規模ダンジョン」
「だけど最近は、どういうわけかプレイヤーキラーの集会場になっちゃってるんだよね」

ネモ
「プレイヤーキラー?」

キャロル
「そうそう。お陰でカジュアル勢が全然近寄らなくって」

困り顔のキャロルの後ろで、ネモとルルアが念話でやり取り。

ネモ
『プレイヤー同士で殺し合いなんかしてるんだ。NPCには攻撃できないくせに』

ルルア
『意図的な仕様だ。他のプレイヤーを殺害すれば、相手の所持品の一部を入手できる』
『代わりに懸賞金を懸けられ、賞金稼ぎのプレイヤーから狙われることになる』
『他にも死亡時のペナルティが追加されるようだが……まぁ、お前には関係のない話だ』
『レプリカントは懸賞金システムの対象外だからな』

ネモ
『なるほど……てことは、ひょっとして』

【P20~21】
ネモ
「キャロルさんの目的って、プレイヤーキラーの賞金目当てですか?」

キャロル
「友達が急にプレイヤーキラーなんか初めちゃったから、そんなのやめとけって言っときたくってさ」
「情報屋で居場所を調べて乗り込んでやろうかなと」

ネモ
『危ないこと考えるなぁ』

ルルア
『まぁ、こちらにとっては好都合だ。プレイヤーキラーならちょうどいい標的も多いだろう』
『ついでに手頃なアカウントを頂戴してやろうじゃないか』

キャロル
「よーし、それじゃしゅっぱーつ! こっそり忍び込むよ!」

岩山を登り、塔の近くへ。しかし塔の周囲は不気味に静まり返っている。

キャロル
「あれ? おかしいな……こんなに静かなはずが……」

三人が慎重に塔の中を覗き込み、驚きの表情に。

【P22~23】
塔の中には、プレイヤーのアバターの残骸(第1話P42~43)が散乱していた。
大勢のプレイヤーがこの場所で戦いになって死亡したことが明らかな光景。

キャロル
「な、なにこれ……何があったの……?」

ルルア
「アバターの崩壊具合からして、倒されてからそう時間は経っていないようだが……」

ネモ
「ということは、まさか」

【P24】
ネモ
「犯人は、まだ近くにいる」

ネモの台詞と共に視点が代わり、塔の最上階に。
目つきの鋭い少女のプレイヤーが、ファンタジー的なデザインのライフルを手に、塔の壁にもたれかかっている大コマで第3話を締める。

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