「マスコット・オブ・魔法少女」第2話

【シーン1:真白が通う中学校】
昼休憩。クラスメイトが弁当を食べる中、真白は無言で惣菜パンを齧っている。
それを見たクラスメイトは一様に気まずそうな反応。
嫌を亡くしたせいで弁当の用意もできなくなったのだと思った様子。

生徒達「く、黒崎さん、よかったらこれ食べる?」「今ダイエットしててさ。ちょっと手伝ってよ」「これ私が作ったんだけど、味見してもらっていいかな」

色々と理由をつけて、真白におかずを分けようとするクラスメイト達。
当の真白は普通に食事をしていただけだったが、誰もそれに気付いていない。

真白(寝坊したから作れなかっただけなんだけど……まぁいっか)

マイペースに食餌を続ける真白。
賑わう真白の周囲から少し離れたところでは、第1話ページ7の派手な格好の女子生徒が、これまで以上に険しい顔で、真白を妬ましげに睨んでいた。

【シーン2:昼間の大通り】
一方その頃、ハルは小動物のフリをして大通りをうろついていた。
通行人も大勢行き来しているが、誰一人としてハルに気付いた様子はない。

ハル
(グレイが言ってた通りだな。誰も気付きやしねぇ)
(魔法少女とそのマスコット、悪魔とその使い魔は、人間の認識に干渉して存在を隠蔽できる……だっけか)

ハルの視線の先には、人間だった頃に働いていたメイドカフェ。
どことなく寂しそうな雰囲気。

グレイ「あら、入ってみたいの?」

黒猫姿のグレイがどこからともなく現れて、からかうように話しかけてくる。

ハル「神出鬼没だな。人間だった頃のバイト先だよ。今どうなってるのか気になってさ」
グレイ「自分がどんな扱いになってるのか気になるわけね」
ハル「当たり前だろ? いきなり行方不明になったようなもんなんだから」
グレイ「安心しなさい。認識阻害の魔法で都合よく解釈されてるわ。それでも心配なら。今から確かめにいきましょうか」
ハル「は? 確かめる?」

突然、グレイが魔力の光に包まれたかと思うと、黒ずくめの妖艶な美女に変身した。

ハル「ちょ、何だよそれ! ずっりぃ! 人間になれるんじゃねぇか!」
グレイ「一時的な変身よ。ベテランマスコットの証だと思いなさい」

グレイはハルを拾い上げ、まるでペットのように腕の中に抱き込んで、ちょうど店舗から出てきたメイドに話しかけた。

グレイ「ちょっといいかしら」
メイド「はい?」
グレイ「サクマという従業員に用事があるの。呼んできてもらえない?」
メイド「すみません、佐久間は長期休暇を取ってまして」
グレイ「あら、そうだったの。ごめんなさいね。また日を改めるとするわ」

二人のやり取りを見て唖然とするハル。
グレイが路地裏に入ったのを見計らって、腕の中から声を上げる。

ハル「認識阻害っていうか……もう認識改変だろ、これ……」
グレイ「魔法少女と悪魔が夜な夜な派手に戦っているのに、噂程度の情報しか広まっていないのも納得でしょう? ただし、効果があるのは魔法少女とも悪魔とも縁がない一般人だけ。そこは気をつけなさい」

グレイの腕の中で、ハルは苦々しく歯噛みする。

ハル
(この調子だと、親父とお袋も適当に納得してるんだろうな……最近会ってないけど)
(次の給料が入ったら、冬夏(ふゆか)にも兄貴らしいことしようかと思ってたんだが……あー、駄目だ。ネガティブにしかならねぇ)

【シーン3:日暮れの住宅街】
シーン1で真白を睨んでいた派手な格好の女子生徒が、心の中で嫉妬と憎しみを吐き散らしながら下校している。

女子生徒
(何よ皆! 黒崎のことばっかりチヤホヤして!)
(あんな陰気で平凡な奴のどこがいいんだか!)
(親が死んだくらいで何よ! 私よりも注目する理由になると思ってんの?)
(あんな奴に! 私が負けるわけ! ないじゃない!)

そのとき、女子生徒の頭上に巨大な何かが現れ、夕日を遮って影を落とす。
驚き足を止める少女。
影を落としたモノの正体は、スズメバチを異形化させたような姿の悪魔だった。

悪魔「ソノ願イ、叶エテヤロウ」

【シーン4:夜、真白の自宅】
リビングで寛ぐハル。
この家にもすっかり慣れ、ソファーに寝そべってテレビを眺めている。
真白はソファーの後ろからその姿をじっと見つめ、率直な感想を口にした。

真白「ねぇ、ハル。なんか毛皮、汚れてない?」
ハル「そうか? この体になってあんまり経ってないし、平気だと思うんだけどな」
真白「いーや、絶対汚れてる。最初はあんな真っ白だったのに、今はちょっと灰色っぽいよ。汚いところ走り回ったりしてたんじゃない?」
ハル「むむ……」
真白「ほら、行こ。洗ってあげる」

風呂場で洗われるペットの姿を想像しながら、大人しく真白に抱え上げられるハル。
ところが、風呂場に着いた真白は、当然のように自分も服を脱ぎ始めた。

ハル「……っておい! 何やってんだ!?」
真白「え? ついでにシャワー済ませようかなって」

じたばたと抵抗するハルだったが、扉を閉められて逃げられず、なすすべもなく泡だらけにされてしまう。

ハル
(元人間だって、ちゃんと教えたよな、俺。気にならないもんなのか?)
(女子中学生の気持ちはさっぱり分からん……分からんけど、この状況が色々とアウトなのは分かる……!)
(次からは自分でキレイにしとこう……!)

【シーン5:一方その頃 夜の街】
短い前フリシーン。真白のクラスメイトが塾を出て帰宅しようとする。
そこにシーン3の派手な女子生徒が現れ、不穏な笑みを浮かべる。

モブ「あれ? 駿河さん?」

モブの首筋に小さな異形の蜂(スズメバチ型の悪魔の使い魔)が止まり、針を突き刺す。
モブがびくりと震え、瞳から光が失われる。

【シーン6:真白が通う中学校】
翌日。真白が教室に入ると、クラスメイト達が派手な女子生徒を囲み、口々に褒めたり機嫌を取ったりしていた。
このとき、モブに「駿河さん」「莉緒ちゃん」と呼ばせ、この女子の名前が「駿河莉緒」だと読者に明示。
莉緒は自慢げに真白の方を見やり、見下すように声をかける。

莉緒「おはよう、黒崎さん。ごめんなさいね、皆私に夢中みたい」
真白「え、うん。いいんじゃない?」

対する真白は、心底興味がなさそうに席に着き、授業の準備を始めた。
莉緒はそんな真白の態度を余裕と受け取ったのか、憎らしそうに睨みつけていた。

【シーン7:日没頃の通学路】
学校が終わり、一人で黙々と下校する真白。
その肩に、どこからともなくハルが飛び乗ってきて、耳打ちをして警戒を促す。

ハル「悪魔の気配だ。かなり近いぞ」

直後、真白の進行方向に制服姿の莉緒が立ちはだかる。
莉緒の背後にはクラスメイトが大勢集まっていたが、全員目が虚ろで正気とは思えない様子。

莉緒「こんばんは、黒崎さん」

明らかに異様な雰囲気に身構える真白。
莉緒は構わず一方的に言葉を続ける。

莉緒
「正直に言わせて。あなたって本当に目障りね」
「クラスの『女王蜂(クインビー)』は私のはずでしょ?」
「あなたみたいに、地味で、陰気で、社交性の欠片もなくて、メイクもろくにしてない女が注目されるのは間違ってるの」
真白「……本っ当にどうでもいいんだけど……」
莉緒「やっぱり同情を買うのって強いわね。親が死んだくらいで、皆コロッと騙されちゃって」

最後の一言を聞いた瞬間、真白の顔に怒りが浮かび、魔力が激しく昂ぶる。

ハル「待った! 人間相手に魔法は……!」
莉緒「女王様がお仕置きしてあげる!」

莉緒の背後に、異形のスズメバチ型の悪魔が実体化。爪だけで人間サイズ。
クラスメイト達がゾンビ映画のように真白めがけて殺到する。

ハル「悪魔!」
真白「だったら遠慮はいらないよね!」

真白の変身シーン。だが、第1話のグリムリーパー・スタイルではなく、新たなスタイルへの変身。
全身白尽くめでふわっとしたシルエット。服の一部は霧のようにシースルー。
第1話シーン9と同じく、キラーミスト・スタイル、の書き文字と共に変身終了。

ハル(グリムリーパーは殺傷力が高すぎる! 代わりにこいつで……!)

操られたクラスメイトが一斉に飛びかかってくる。
真白は魔法の霧を大量に発生させて視界を塞ぎ、その隙に間をくぐり抜けて包囲を突破。
莉緒と悪魔に向けて一直線に駆け抜ける。それを憎々しげに睨む莉緒。

莉緒「あんたも悪魔と契約してたのね! どこまで私の真似をしたら気が済むの!」
真白「悪魔じゃない! 魔法少女だ!」

霧を凝縮させたナイフ形の刃物を、両手のそれぞれの指の間に挟むように生成。
それを莉緒めがけて一斉に投げつけるが、悪魔の脚が盾になって阻む。

真白「くっ……!」
莉緒「はー、ほんっと目障り。ヘルホーネット。もう食べちゃっていいから」

莉緒の呼びかけに応えるように、スズメバチ型の悪魔ヘルホーネットが咆哮して翼を広げる。
それとほぼ同時に、真白と莉緒がいる道路脇のビルの屋上から、小柄な人影が飛び降りる。

真白「ハル! スタイルチェンジ――」

真白が身構えた次の瞬間、軽自動車ほどの大きさがある巨大なハンマーが、ヘルホーネットを叩き潰して道路にクレーターを作った。
真下にいた莉緒も巻き込まれ、ヘルホーネットの体の下に消える(ハンマーは当たっていない。道路に叩きつけられた悪魔の体に巻き込まれた形)

莉緒「ぶべっ!?
人影の正体は第1話シーン10の魔法少女。
ハンマーを縮小させ、現実の両手持ちスレッジハンマーと同程度のサイズにして肩に担ぎ、にやりと好戦的な笑みを浮かべる。

魔法少女「んじゃ、改めてご挨拶だ。はじめましてだな、ルーキー」

真白が全身白ずくめなのに対し、相手は赤色と黄色が入り混じった派手なカラーリング。
スズメバチ型の悪魔は跡形もなく消滅しつつあり、操られていたクラスメイト達も少しずつ意識を取り戻していく。

魔法少女「もう洗脳が解けたのか。面倒だ、場所を変えるぞ。ついてきな」

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