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ななかまどファンアート小説「洋食屋の裏側のはなし」を天花寺さやか先生が書いてくれました

さて、そろそろ「金沢 洋食屋ななかまど物語」の発売日からひと月が経ちます。今日はスペシャルnoteでして、なんと、大人気小説「京都府警あやかし課の事件簿」の作者である、天花寺さやか先生が書いてくださった、ななかまどのファンアート小説を公開します!

あやかし課、めちゃくちゃ面白くて、1~3巻でもう10万部突破なんですって…!4巻が9月に発売されるんですって…!

私が書いたあやかし課の記事はこちら。読むともれなく読みたくなりますよ。

それでは、お待たせしました。本ファンアート小説の主役は、紺堂。さやか先生が推しに推してくださってる、コックの彼、紺堂です。

では、どうぞ。

そいつは、才能のある男だった。お互い違う場所で働くようになり、道を別れてもう数年たつが、奴の事を、俺は未だに覚えている。

というか、料理人として共に厨房に立った人間は、皆、奴の事を覚えてるんじゃなかろうか。まず、「紺堂」という苗字が、音はともかく字面はかなり珍しいからだ。

奴と初めて出会ったのは、俺の修行先でもあった大きなホテルの洋食レストランだった。洋食レストランと言っても、テレビ局やガイドブックで取り上げられるのは日常で、コアなファンや常連も沢山ついている店だったから、一流店と言う方が正しいのかもしれない。

そんな店だから、厨房にはコックが何人か常駐していて、俺と紺堂は、ほぼ同時期にその洋食レストランに雇われていた。

当時の俺は、二十歳。紺堂も同い年だった。外見は、料理の世界よりもスポーツに行った方がいいんじゃないのと思わせるほどの体格で、それだからか、考え方も言動も爽やかだった。チーフシェフの受けも相当に良かった。だから俺も、奴には第一印象からして好感を抱いた。

もちろん、紺堂も俺を前にして嫌味なところなど一つもなく、お互い年齢を確認した時は、気軽に肩を叩いて「頑張ろうな」と言い合ったものだった。歳が近いとなれば実力はそう変わらないと思い、俺は、秘かに奴を追い抜かしてやろうとも考えていた。


けれど、現実は全くの逆どころか、奴との差は開き切っていた。

紺堂は、初日から数日で調理器具の場所や一日の厨房の流れを見極めると、先輩たちにこき使われながら、瞬く間に彼らの技術を盗んでいた。感性と味を読み取る事にも長けていたのか、チーフシェフや先輩の作った見本を味見して、レシピを見れば、奴はもう翌週にはほぼ同じものを再現していた。チーフシェフが褒めちぎったのは言うまでもない。


そうなれば、客にも奴の料理を出せる。常連に認められる事も多くなって、一部の先輩の嫉妬などもあったが、奴は圧倒的な実力を武器にものともしなかった。そうして奴は、その店の主力コック、一流の料理人として駆け上がっていた。

純粋に、すげえ、と俺は思った。外見も悪くなく、性格も、少し頑固なところがあるけれど爽やかで、料理の腕前さえ一流なんて、反則じゃないか。これで良い嫁さんをゲットした日には、俺はお前を呪うね。間違いない。


仕事終わりの飲み屋で笑いながら紺堂にそう言うと、奴は謙虚に笑い返すだけだった。

そういう俺自身はというと、褒められる事もあれば怒られる事もありの、可もなく不可もなくという普通のコックだった。奮起や絶望でもすればまだドラマチックだったのかもしれないが、結局、俺たちの差は開く事なく、縮む事なく、やがて俺も紺堂も、その洋食レストランから離れてしまった。

その後、俺はとある老舗洋食店の厨房に納まって、今も変わらず働いている。

腕前は、やっぱり可もなく不可もなく。それでも自分なりに、楽しい人生を送っている。

ただ、以前と違う所が一つだけあって、仲間内でコックの話になった時に、「こんな奴がいたんだ」と、必ず奴の話をする事だった。

別の人生を歩んでいる俺と紺堂は、多分、もう会う事はないのだと思う。紺堂は、良くも悪くもまっすぐな奴だ。俺の事など気にしない。そういう奴だ。

俺は、今年で二十五になる。奴は今、一体どこで、何をしているんだろうか。やっぱりレシピを見ただけで先達の味を再現して、周りに褒められて、可愛い彼女でもいるんだろうか……。

そこまで考えて、俺はある事を思い出した。あの洋食レストラン時代、いつだったか、先輩達と飲みに行って、好きなタイプの女の話をした時だ。


俺を含んだ周りが、やれ巨乳がいいだの、束縛がどうだのと言っている中、話を振られた紺堂は迷うことなくこう言った。

「僕は……夢に向かって一生懸命頑張っているような、そんな人が好みですね」

模範解答かお前! と、皆で笑ったものだった。そこに奴が、「あ、それと、ちょっと勝気な人だときゅんとします」と言ったもんだから、先輩が酔いで顔を赤らめながら、「何お前、実はマゾなの?」と、絡みまくっていた。

俺は、この一幕を明瞭に覚えている。才能を持つ紺堂の、何かしらの素顔を見れたような気がしたからだ。

紺堂は、果たして、どんな女の人に惚れるんだろうか。あらゆる面でのお手本のような奴だから、さぞかし情熱的で、順調な恋を、するんだろうな。

そういう事を俺が知る由もないが、厨房に立ちながら、ぼんやり考える時がある。

*************

数日後、俺は偶然、奴がある店で働き始めたという話を聞いた。その店の主人に希望されて、紺堂も二つ返事をしたらしい。

小さな洋食屋というのは意外だったが、奴ならば、あっという間に店を盛り上げるだろうなと俺は思った。

その、奴が働いている場所は何と言う名前の店だったか……。
俺は少しだけ考えて思い出す。確か平仮名だ。

――そうだ、思い出したぞ。
「ななかまど」だ。

(おわり)

いかがでしたでしょうか!さやか先生、本当にありがとうございます!ねえ、もう、めちゃめちゃいいですよねこのお話。飲みの席で、好きな女の話なんかして、それが本編の(伏字)に重なっていくところとか、最高じゃないすか!!!!!

わーい、とっても嬉しかったです!

そして、実はこの企画は、ファンアート交換でして、私もさやか先生のあやかし課のファンアート小説「紫陽花の恋」を書いております。

こちらから読めますので、まだ読んでない方、どうぞ!大ちゃんと塔太郎さんの、淡い梅雨の時期のおはなしです。

作家として敬愛しているさやか先生と、交換ファンアート、とても楽しかったです。さやか先生、これからもどうぞよろしくお願いいたします!

最後に、自分の本の宣伝も。

「金沢 洋食屋ななかまど物語」金沢はじめとした北陸の書店さんで、たくさん応援いただいてます!

noteからの書籍化ということもあり、ここnoteでたくさんの方に知ってほしいです。ぜひ、お手に取ってみてくださいね(*^^)v

本についての詳細はこちら!

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