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19歳

息を切らして走って、転んで血がにじんでも、また立ち上がって走り出す。私たちのきらめきは、一瞬だって知っているから、走れるときには、全速力で走る。救いの啓示を、いつも見逃しては、誰かがさしのべてくれた手をふりきっている。

夜中のコンビニ。19歳の誕生日。家から持ち出したボストンバッグの中には、少しだけの替えの服に化粧道具、お財布と携帯だけ。電話を鳴らしても、友達はみんな出てくれなかった。これからさあ、どこへ行こう?

コンビニ外のベンチで、自分のために買ったホールケーキを、チープなプラスチックのフォークで食べる。口の周りをクリームでべたべたにしながら。ケーキをどれだけいっぱいおなかにつめこんだとしても、私の気持ちは満たされることはない。寂しさは祈りに変わらない。

くだらないことで泣いたり笑ったり、そんなフリばかりつづけていたら、本当に一人になったとき、なすすべがなかった。ルージュ、ファンデ、チークにマスカラ。化粧ポーチの中身をひとつずつ取り出し、外のつめたいベンチに並べていく。ルージュが転げて、地面に落ちた。拾うのすら、面倒で、遠い凍った月を見ていた。

何度もバイバイと絶交を繰り返してきた私には、もうさよならする人が誰も残っていない。行きたいのは、この世界の向う側。死にたいってわけじゃないけど、どこでもない場所へ行けたら。ケーキで胸やけする胃の中に、熱いコーヒーを流しこんでやる。おなかが痛い。

国道沿いのコンビニで、近くに大型スーパーもあるから、遠くから商品を運ぶ長距離トラックが、さっきから何台も駐車場に泊まる。このまま連れ去ってほしかった。九州でも東北でも、どこにでも行くから。

調子はずれのバースデーソングを月に向かってうたいながら、朝方になってつめたくなった自分を、コンビニ店員がゴミと一緒に始末してくれたら、と考えた。でもこの気温は、死ぬほどじゃない。それはたぶん絶望で、同じくらいの希望なのだ。

#第1回noteSSF #小説

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