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2022年4月の記事一覧
【小説】スープがならぶまでに 征吾篇
いつも、一瞬遅いのだ。泣くとわかっていれば「いまからさあ泣かれるぞ」という心がまえができるのに。和佳奈が泣き始める兆しを捉えるのが自分は遅い、と小松征吾は大きく肩を落とした。気づいたときにはもう、娘は火がついたかのごとく大声で泣きわめいていて、手の施しようがない。
もうこうなるとなだめてもすかしても効果はなく、ただひたすらなるべく優しく聞こえる声かけをするよう努めながら、内心「子供の声がうるさい
【小説】暗がりに泳ぐ
同僚である堀内さんのアパートを訪ねるのは、初めてのことだった。老舗の和菓子メーカーの商品企画部に今年の春から配属された私は、三歳上の堀内さんに何かと仕事を教えてもらうことが多くて、彼のことをとても頼りにしていた。
一緒に働いて三カ月。堀内さんの穏やかで聡明な人となりを知っていくうちに、私の心は自然と彼に惹かれ始めていた。
先週の会議のあと、実家の栃木県から段ボールいっぱいの野菜が届き過ぎて困っ