名探偵ボディビルディング|ショートショート
「ふぅ、肩凝ったな」
ふと、先日会社のそばでマッサージ店を見つけたのを思い出した。たしか、推理小説みたいな名前のお店だった気がする。
「あった、あった。『名探偵』か」
ネーミングセンスは疑わしいが、自分の店に「名」という字をつけるほどには、腕に自信があるのだろう。迷わずドアに手をかけた。
中に入ると、壁一面にトロフィーが並んでいた。文字をよく読もうと目を凝らした途端、奥から男性が出てきた。
「いらっしゃいませ」
筋肉隆々の腕を半袖から覗かせていた。
寝台に横になり、背中、肩と順に力強く揉まれていく。
不意に、手が止まった。
「お客さん、殺人を犯してますね」
「は?」
「筋肉が死んでしまっている。かわいそうに。これはれっきとした殺人です」
「え?」
それからは、愛すべき筋肉を殺した罪を償うためには、どんな運動をすればいいかということを滔々と説教された。
料金を払って店を出る時に、トロフィーの文字が目に入った。
ボディビルディング大会のものだった。
「筋肉愛好家か」
軽くなった肩に、殺人の汚名が重くのしかかった。
(444文字)
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