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さしすせそ寿司|ショートショート

昔ながらの寿司屋の暖簾をくぐり、白木のカウンターに座る。
「大将、今日のおすすめは?」
「今日は新鮮な”さ行”が入ってるよ」

人々が文字を食らうようになったのは、いつ頃からだっただろうか。
度重なる自然災害と食糧危機に比例するように、世の中には文字が溢れていた。世を憂う言葉、誰かに向けられた罵詈雑言、ネット上の誹謗中傷。増え続ける文字に、どこかの誰かが目をつけたのだ。

「”さ行”か。産地は?」
「昔の新聞だ。”悪意”は入ってないよ」

文字は美味くもないが、食えないほどではなかった。
しかし、文字の生産地に”悪意”があると、話は別だ。この高級店では、文字の産地にも気を遣っているというわけだ。

「じゃあ、”す”と”し”を一貫ずつ」
「はいよ。寿司だけに、ってか」

日本酒を呑みながら、”さ行”の寿司を頬張る。
結局、”さ””し””す””せ””そ”を一貫ずつ食った。
帰りながら、文字を食うことを思いついたのはどこのどいつだろう、と考えていた。


#ショートショートnote杯

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