アナログ巌流島|ショートショート
「右手に見えるのが巌流島です」
僕は座っていた椅子から半ば身を乗り出すようにして、体を捻る。島だ。船が十分に島に近づくと、島の上の方に【上陸する】というアイコンが見えた。ゴーグルのツマミを操作してクリックする。
ロード中にゴーグルを外して水を飲む。
再び装着すると、目の前には海が広がっていた。
ツアーガイドの声に従い、巌流島を見て歩いた。こんなに狭い自分の部屋からどんなところへでもバーチャル旅行ができるのだから便利だ。
ふと島の上空にアイコンが見えた。【アナログ巌流島】と書いてある。
なんだろう、ガイドの説明にはなかったが。右手でツマミを操作してクリックした。
一瞬の風と衝撃を感じ、バランスを崩して床に手をついた。床じゃない。手には砂を握っていた。
慌ててゴーグルを脱ぐ。目の前には海が広がっていた。
「おい、武蔵」
恐る恐る振り向くと、刀を手にした男が立っている。
「待て、違う」
僕はゴーグルを捨て、落ちていた長い木の棒を手にした。
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