噛ませ犬ごはん|ショートショート
レストランの入り口ドアのベルが鳴った。
「すみません、もう閉店の時間で……」
入り口に立つ男の姿を見て、すぐに口をつぐんだ。この街で一番のお金持ちのご主人が、立っていた。
「まだやってるかね? 腹ペコだが、他はどこも閉店でね。外から君の姿が見えたのだが」
ギャルソンは、チップを弾んでくれそうだ、と頭の中で計算した。しかし、シェフはすでに帰ってしまっていて、料理は出せそうにない。どうしたものか。
「確認いたします」
ギャルソンは急いで厨房に向かう。何か出せる料理はないか。
ふと、お皿が目に入った。今日の「まかない」だ。チキンのトマトソース煮。これだ。
ギャルソンがご主人を席に案内する。
「本日は遅くまでどちらに?」
「今日は釣りをして来てね。その場で捌いて食べたのさ」
「お料理ですが、鯛のカルパッチョ、ヒラメのムニエル、チキンのトマトソース煮からお選びいただけます」
「じゃあ、チキンにしよう」
「かしこまりました。すぐにご用意できます」
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