見出し画像

グリム童話ATM|ショートショート

「だからさぁ、俺の若い頃はね、大変だったのよお」
酔いが回ってきて、ついつい語尾が伸びてしまう。新入社員たちは正座した足を崩そうとしない。上司の昔話をこんなに真剣に聴いてくれるのは、入社したての今しかないのだということを知っているので、話にも熱が入る。
一番端に座っている入社3年目の女の子はといえば、さっきからおしぼりで自分のグラスについた水滴を拭き取っている。要は、退屈しているということだ。

ここはひとつ、良い話をしなければ。
さりげなく上着のポケットを探る。紙の束を取り出した。

「ありがとうございました!」
居酒屋の出口で新入社員たちが頭を下げる。
「おう」
片手をあげて応える。

帰りに、ポケットからくしゃくしゃになった紙を引っ張り出した。飲み会の前に、ATMから引き出しておいた童話だった。おかげで新人たちに良い教訓話ができた。
今度はグリム童話銀行の通帳を取り出す。童話のタイトルが並んでいる。
きちょうなお話ができたようだ。

(410文字)

こちらの企画に参加しています。


また読みたいなと思ってくださったら、よろしければスキ、コメント、シェア、サポートをお願いします。日々の創作の励みになります。