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違法の試着|ショートショート

「ご試着されますか?」
笑顔の店員が、こちらに近づいてくる。
「あ、はい」
「こちらへどうぞ」
試着室に案内される。タグをチラリと盗み見たが、肝心の値段は裏面だ。
「ごゆっくり」
カーテンが閉められるや否や、値札をひっくり返す。

わお。高い。
頭の中でバーゲンまでを、カウントダウンする。
ま、着てみるだけ。

突然、試着室のカーテンが乱暴に開けられた。
「警察だ。試着室不正利用の疑いで通報された」
「は?」
警察官の格好をした男から肩を掴まれ、試着室の外に引きずり出された。
「この服は買うのか?」
「え?」
「試着した服は買うつもりなのか、と聞いている」
「いや、まあ、バーゲンになったら買おうかと」
「現行犯逮捕!」
いきなり腕を捻りあげられた。手首に冷たい金属が触れる。
「いてて」

奥の小部屋に座らせられた。手錠はもう外されている。
「試着室不正利用は罰金刑だからね」
警官が落ち着いた口調で説明する。
「この試着した服を購入してもらうよ」
「え、それが罰金?」
「そう。最近はお金使わない若者が増えたから、国が頭を捻ったそうだ。この服は買って帰れ。わかったな」

警官は部屋を出ていく。ドアのところで振り返って言った。
「それ、似合ってたよ」

(498文字)

こちらの物語は、 #匿名超掌編コンテスト への応募作です。
36位という結果でした!投票いただいた皆様、重ねて御礼申し上げます。


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