Ukko

詩を書いたり、写真を撮ったり、声で表現したりしています。

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記事一覧

連作「母を看取るということ」5

「桜街道」 施設入所の日 近所の桜街道を通る 送迎車の窓から 季節外れの 雪が舞うのを見ていた もう少しで咲くのにねと 職員さんがつぶやく 一週間後 満開になった花道…

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3週間前
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連作「母を看取るということ」4

「春の日」 何度目かの退院の日 あした帰れると思うと 嬉しくて眠れなかったと 言っていたのを思い出す 長い長い入院の後 いまやっと 帰ってきた母が やわらかな 春の光…

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3週間前

連作「母を看取るということ」3

「#また明日ね」 王子動物園のタンタンに 使われていたハッシュタグを 帰り際 母に向かって言う おまじないのような気持ちで言う けれどその夜 母は逝ってしまった また…

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3週間前

連作「母を看取るということ」2

「崩壊」 壊れないように 大切に抱えてきた母が ぼろぼろと床に散乱していく 泣きわめき しゃくりあげながら 必死になって 母だったものを 掻き集める

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3週間前

連作「母を看取るということ」1

「面会」 日の当たらない病室の 閉じられた時間の中で 母は 小さな寝息を立てている 瞼はずいぶんまえに 塞がったまま イヤホンを片耳ずつ当てて 52歳で逝ったひばりの歌…

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3週間前

連作「母を看取るということ」5

「桜街道」 施設入所の日 近所の桜街道を通る 送迎車の窓から 季節外れの 雪が舞うのを見ていた もう少しで咲くのにねと 職員さんがつぶやく 一週間後 満開になった花道を にわかに残念な気持ちで 通り過ぎる 有料老人ホームは高額で 何年入れてあげられるか という心配は不用だった 次の年の桜も見ずに 母は逝ってしまった いま 一人になって 桜咲く通りを歩きながら 車椅子の把手越しに感じた重みや 薄曇りの 雪の舞い散るあの空を 繰り返し思い出している

連作「母を看取るということ」4

「春の日」 何度目かの退院の日 あした帰れると思うと 嬉しくて眠れなかったと 言っていたのを思い出す 長い長い入院の後 いまやっと 帰ってきた母が やわらかな 春の光を浴びて しずかに眠っている

連作「母を看取るということ」3

「#また明日ね」 王子動物園のタンタンに 使われていたハッシュタグを 帰り際 母に向かって言う おまじないのような気持ちで言う けれどその夜 母は逝ってしまった また明日はなかった もし食べられるときがきたら 食べてもらおうと 買っておいた水羊羹があった 施設に帰ったら 温かいコーヒーが飲めるように 電気ポットを買っておいた もし調子が良くなったら また梅を見に行こう もし退院したら いったん家に連れて帰ろう 楽観的な思いの数々に 突然の解散命令が下る 祈るよう

連作「母を看取るということ」2

「崩壊」 壊れないように 大切に抱えてきた母が ぼろぼろと床に散乱していく 泣きわめき しゃくりあげながら 必死になって 母だったものを 掻き集める

連作「母を看取るということ」1

「面会」 日の当たらない病室の 閉じられた時間の中で 母は 小さな寝息を立てている 瞼はずいぶんまえに 塞がったまま イヤホンを片耳ずつ当てて 52歳で逝ったひばりの歌を聴く 白いドレスがうつくしい 彼女が残した歌声は 悲しみの方に 容易く転んでしまう私を じんわり じんわり あたためてくれる