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十月の星々(140字小説コンテスト第3期)応募作 part1

part1 part2 part3 part4 part5 結果発表

月ごとに定められた文字を使った140字小説コンテスト。

今月の文字は「着」。

10月31日までご応募受付中です!
(応募方法や賞品、過去のコンテストなどは下記をご覧ください)

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応募作(10月1日〜5日)

投稿日時が新しいものから表示されます。

10月5日

藤和 @towa49666
薪を分厚いナイフで細く割っていく。細くした薪は先の方を削って羽根のようにする。これはフェザースティックという焚き付けだ。これがあれば着火剤を使わずに焚き火を焚ける。とはいえ、フェザースティックを作るのはどうにも苦手だ。今日も着火剤を使って火を付ける。揺れる火は暖かくてほっとした。

みもざ(サイトからの投稿)
癒着、粘着、愛着。ああ、この感情をなんというのだろう。貴女のためなら全てを差し出せるこの感情をなんと呼ぶのだろう。珈琲カップに赤いリップ。僕の鎖骨に赤いマーク。この関係に最後が来るのは嫌だから、いっそのこと一つになりたい。忘れようにも忘れならないほど恋慕っている。恋着。

作花望(サイトからの投稿)
久しぶりに実家へ帰った。到着するなり、両親は都会での暮らしぶりを根掘り葉掘り聞いてきた。心配するようなことなんて無いと常々言ってるんだけど、やはり気になってしまうらしい。その日の晩、母は裏山で採ってきた茸と山菜で御馳走を作ってくれた。おふくろの味は、どんなグルメよりも美味かった。

三日月 月洞 @7c7iBljTGclo9NE
貴女は常に無頓着に返事をする。
「そう」「うん」「別に」
だから、僕が死んでも泣かないと思っていた。
まさかこんなに号泣するとは。
罪悪感で居た堪れず撮影役の友人と共に姿を現す。
「それ人形なんだ」
「……おあいこ」
彼女はそう言うと、指輪の下にある自分の電源をオフにして本体を呼んだ。

黒野綯路 @High_Delight
なぜ……いや、わかるとも。最強の接着剤と、我々が開発した電磁石の反発。実験したくなる気持ちは理解できる。私が問いたいのは、破損した壁や機材について、君がどんな解決策を持ち合わせているのかだ。ほう、接着剤。天才の閃きだな。では、まずは君のクビが繋がるかどうか試してみようじゃないか。

秋助 @akisuke0
星磨きのために月へとハシゴをかける。夜が訪れる前に後輩と光を綺麗にしないといけない。月に着いてもやる気のない後輩は「美しいから意味があるって感覚が嫌いなんですよね。汚れた光にだって希望はありますよ」とけたけた笑う。星屑で汚れた後輩の姿を眺める。泥まみれの光は、確かに存在するのだ。

作花望(サイトからの投稿)
天高く馬肥ゆる秋、ってことわざがあるでしょ?あれ、生き物全般に言えると思わない?私たち人間だって、秋は食べ過ぎちゃうこと多いでしょ?食欲の秋って言うくらいだし。でもママはちょっと違くて、食費が掛かることを理由にパパのお財布からお金を勝手に取っちゃうの。パパは「着服の秋」だ、って。

作花望(サイトからの投稿)
ファッションに興味がない人間にとって、秋は本当に面倒な季節だ。夏はTシャツ一枚で済んでたのに、あれこれ重ねて着るのが本当に煩わしい。冬の様に分厚いコートだけで終わらせることも出来ないし。
…え?春は、って?…そ、そうか!春と同じ恰好をしてればいいんだ!ジャケット羽織るだけのやつ!

作花望(サイトからの投稿)
夏は暑くて嫌いだ。外を歩くだけで体力を消耗してしまうから。だから僕は気温の落ち着く秋の方が好きなんだ。それに秋は美味しいものがたくさんある。桃に梨に栗。さんまに松茸にさつまいも!どれも僕の大好物だ。ああ、早く食べたい。…と思っていたら来た!通販で注文した秋の味覚セット、遂に到着!

作花望(サイトからの投稿)
季節は「着節」だと祖母が言っていた。衣服を切り替える時季の節目をその様に言うのだと。だから季節というものは、景色や食べ物よりも、自分自身の服装こそが表しているのだと教わった。だから私は様々な服を買い揃え、季節を体感した。そんな私に言わせれば、オールシーズンなどあまりに無粋だった。

五十嵐彪太 @tugihagi_gourd
ドローンが郵便配達するようになって久しい。それに対抗するかのように、手紙を紙飛行機にして飛ばす者が現れ始めた。紙飛行機に微小のエンジンだのAIだの取り付けるようだが、詳しくは知らない。時々、間違ったポストに着陸した恋文飛行機のせいで、ちょっとしたいざこざが生まれるのも当世風である。

碧乃そら @hane_ao22
「骨折しちゃった」思いの外元気そうに笑う彼女の右腕はギプスで固定されていた。彼女が交通事故に巻き込まれたという一報を聞いた時、背筋が凍る思いをした。「君のネクタイ結んであげられないね」俺は着崩した制服のネクタイを締め直してくれる彼女の手と、彼女の存在が当たり前ではないことを知る。

大殿篭 猫之介 (おおとのごもりねこのすけ) @ponkotsu_mt
帰省しに来る時は「ただいま」と言って呉れるのに、学校の街に戻る時には「行ってきます」ではなく「じゃあね」なんて短く去ってしまうのを、見送った後の数時間、いつに増して閑かな母家で夫婦は無口だ。
「着いたよ」子の声を電話で聞いて、やっと私達は立ち上がり、多過ぎる晩御飯の支度を始めた。

たつきち @TatsukichiNo3
タッタッタッタと足音のする方を見ると、空色の小人が駆けてきて「カルダモン、ハルダモン、アキダモン」と言いながら華麗に空中回転をしてはピタリと着地を決め、再び軽快な足音を立てて走り去っていった。「うん、秋だねぇ」と呟いて僕はその背中を見送った。そういえばカルダモンってなんだっけ?

森ノ宮はくと @morinomiya8910
「美香、帰るぞ」「あ、和くん」教室の扉が開いて、迎えが来た。「また明日ね、優里」「うん、また明日」私は2人に手を振った。私が先に出会ったのに。私がずっと一緒にいたのに。どうして、私を差し置いてあなたが隣に居るのよ?ねえ、どうしてなの。ああ、恋が先着順なら良かったのに

四藤良介 @zTQNFLMWQLRnf35
悩むことはある程度必要だよ。だけどね、そもそも幸せになりたいから悩む訳でしょ。そしたら悩むことを積もり積もらせて押し潰されちゃ本末転倒だよ。悩むのはある意味では楽なんだ。それをひっくり返すことは大変だからね。そう言って彼は真新しい上着をさらりと羽織る。素敵だ。値札がついたままだ。

三日月 月洞 @7c7iBljTGclo9NE
彼女は彼に恋着していた。
その節榑立った指と固く筋の浮き出た前腕を殊更に愛し、別れの時すらそれを惜しんだ。
「この腕、取り外せないかしら」
「また怖い事を」
3年後、彼は戻った。
が、肘から先が無い。
敵兵にくれてやったのだ。
「取り外したら失くしてさ」
彼が云うと、彼女は笑って泣いた。

東方 健太郎 @thethomas3
宇宙の向こうを想像する。いつも暗闇は少し柔和なブルーグリーンの色彩を思わせてくれた。星が煌めき、月が陰り、その合間に街灯が揺れる。オルタナティブロックはこうして生まれたのだろうか。小樽の町のガラス館には、赤や紫の硝子細工が並べられていた。夜の帳が下りると、帰りの列車が駅に着いた。

柊鳩子 @yorunohituzi
会うのが楽しみなのは、ほんの一時。明日着る服を考えながら、少しずつ面倒くさくなっている自分がいた。
会えたらうれしいし、楽しいのだ。そう言い聞かせて、約束を反故したくなる自分を打ち消す。
と、そこへ携帯が鳴り、明日の約束は呆気なく消えた。
少しの安堵と持て余すほどの淋しさに戸惑う。

久寓 @kuguu_
「着心地はいかがです?」
「悪くない。今回はこの縞模様をいただくよ」
「毎度ありがとうございます」

店を出ていくその後ろ姿を見る度に複雑な気持ちになる。彼は本当はただの白い馬なのに、たまたまうちの店に来た直後に人間に発見されたもんだから“シマウマ”なんて名前を付けられてしまったのだ。

10月4日

藤和工場 @factouwa
新しい学期も、もう一か月すぎた。だというのに、まだ夏が続いてるような毎日で、半袖派がマジョリティ、一方あの娘は長袖の日もある。
…明日は長袖を着て行こう。
もし、ふたりだけがカブったら…文化祭、一緒にまわろうって、言ってみよう。長袖同盟、ワッペンは金木犀。何かできそうな気がする。

久寓 @kuguu_
ドンドンドンッ。
焦った様子で『着火屋』の扉を叩いたのは秋だった。
「冬が準備を始めているみたいなんです。お願いです、急いでください」 「もうそんな季節か……」
着火屋は寝ぼけ眼のまま目の前の葉っぱに火を点けた。
一枚、そしてまた一枚。炎はゆっくりと、次々と、緑を赤や黄に変えていく。

秋助 @akisuke0
僕が心の中で願えば、着払いで何でも届く。お店で売られているものから、失くした写真や誰かの日記すらも。本当に、どんなものでも。隣の部屋から憧れのお姉さんの声が聞こえてきた。彼氏が憎い。あいつさえいなければ今ごろ僕は。そのとき、外でゴトンと音がした。扉を開けると真っ赤に染まった箱が。

Pino @pirooooon
着いたらおわりなの?隣に座る少年が、僕にそう話しかけた。いや、はじまりだよ。僕は答える。ミントキャンディのような瞳が、僕を見た。大丈夫、はじまりだよ。終わりの次は、はじまりなんだ。これを持って。迷わないように。優しい蛍石。最期の旅路を、そっと照らしてくれる。だから、怖くないよ。

久保田毒虫 @dokumu44
「僕の将来の夢は月に行くことです。無事月に着陸できたら、ウサギさんと一緒に餅をついて、たくさん餅を作りたいです。僕のおうちはお餅屋さんだからです。そして作った餅を大量に地球に持って帰って、少しでもお父さんお母さんの負担を減らしてあげたいです。」参観日。お母さんは大粒の涙を流した。

藤和 @towa49666
宇宙船が火星に着陸した。降りてみるとそこは緑と水で満ちた生命豊かな星だった。ああ、いままで写真で見ていた火星はなんだったのだろう。これなら、ここで暮らすことができるかもしれない。そう思ったところで目が覚めた。いつも通りの布団の上。隣では息子が眠っていて、思わずぎゅっと抱きしめた。

 @tatami_tatami_m
彼女は水着姿だ。首のうしろと背中に紐の結び目が位置して、輪っかと紐の端が揺れている。飛びこみ台から下腿がぶら下がり十本の指が水面の少し上で小さなキノコのように並んで一本一本に一枚ずつ爪がまるでプラスチックの部品みたいに生えている。太陽が彼女の背中を照らし彼女の顔は陰になっている。

MEGANE @MEGANE80418606
魔除けだと幼い頃から女物の着物を与えられてきた。持病と体質のせいなのか、すでに二十歳を過ぎた体であっても、未だ女物の着物が馴染む。いつまで、私は「女」に化けていなくてはいけないのか。いつになったら、病魔は離れるのか。なにもかも終わりにしたいのに、心残りの恋が今年も私に秋を見せる。

黒野綯路 @High_Delight
試着を終えた私に、あなたは綺麗だと言って微笑むけれど。私は仏頂面を作って、ぷいとそっぽを向く。あなたはいつも急すぎる。式場への道すがら、ウインドウに飾られたドレスを見て、あっちのほうが似合いそう、だなんて。だから、思った以上だとか言われたって、そう簡単に許してなんてあげないのだ。

ダニー @5FUmQge6xskyxmC
「デートなんて大袈裟なものじゃないわよ。ただ二人で遊びに行くだけ」
初めて見るワンピースを着て笑う娘の声は弾んでいる。今まで浮いた話のひとつもなかった娘の浮かれた様子に、なんだか嬉しいような、寂しいような。
「まあ、なんだ…遅くならないようにな」
やはり寂しいが勝つ、父親だからね。

はぼちゆり @habochiyuri0202
ガラクタを使って花を作る。見たことないが話には聞いた事ある。ガラスのような美しさと繊細さ。私は種を作り着火した。みるみると育ち、天にまで届くと見事に花を咲かせた。皆、上を向いて口々に「タマヤ」「カギヤ」と叫んだ。礼儀だ。この時のことは忘れない。ミサイルも空で咲けばいいではないか。

Rista @Rista_Bakeya
討伐隊は山を越え、麓を荒らす怪物共を仕留めた。これにて一件落着と書かれたページの次に着目した。「それから山はどうなったの」想像はつく。ボスの座を巡る争い、決着、勢力作り、そして。「近づくのは危険な状態かと」無人の村で私達が発見した日記帳は後半が破り捨てられていた。恐らく人の手で。

10月3日

さんし @sansix1212
ハロウィンになると、街は仮装した人々で溢れかえっている。そういう私も、今からこの衣装に着替えて街に繰り出す。コスチュームチェンジだ。私はよれよれのスーツに着替え、今日も宿敵緊急呼出と戦う。いざゆけ、企業戦士よ。夜明けまではまたまだ長いぞ。私は栄養飲料を雑に置き、自宅をあとにした。

さんし @sansix1212
妻の買い物はいつも長い。私は近くの椅子で待とうとしたが、すでに先約たちで埋まっていた。世間の旦那さんは、どこも同じ境遇なのか。壁に寄り掛かり、気長に待った。そこを通り掛かる老人はその光景を見て言った。「これが本当の着長を待つか」と。たしかに。どこの奥様方も試着は長期戦なのである。

さんし @sansix1212
義足は視線を集める。私はそれを気にしない。なぜなら、それに含まれる感情までは送信されないから。そうでなくても、私自身がこの義足と向き合えている。今日も私は飛込台から放物線を描き、水面に着水する。水面から跳ねる水飛沫。広がる波紋。体を包み込む水。私はこの二秒弱が堪らなく好きなのだ。

その辺のスズキ @__wherever_
仕事帰りの見慣れた環状線の窓に映った自分は、いつもと変わらないメイクをしているはずなのに、思っていた以上に疲れて見えた。金晩特有の雰囲気が蔓延する車内で、自分の思い描いていた27歳の姿を反芻する。私の理想って何だっけ。何度も繰り返したそれはいつだって堂々巡りで今夜もまた辿り着かない

 @tatami_tatami_m
言われた通り私は頭にゴムの、半透明である乳白色である水泳帽みたいなものを着用した。その次には、壁に「ロ」の形にあいた穴へ入り、先へ進むということだった。指示通りにすると俯せの状態で肘がコンクリートに当たってとても痛い。泣きたくなったが「もっと辛い思いをしている人もいる」と鼓舞した

さんし @sansix1212
鶴を助けた夜、一人の娘が訪ねてきた。娘は少しだけ部屋を貸してほしいと言う。老人は頷き、部屋に案内した。娘は礼を言い、決して開けないでくださいと言って襖を閉めた。カタンカタンと音に、もしや着物を折っているのではと期待する。音は止み、静かに襖を開けると、タンスの中身は空になっていた。

さんし @sansix1212
着着着着着着着。釦釦釦釦釦。外外外外外。泣泣泣泣泣泣泣。脱脱脱。泣泣泣。着着着着着。釦釦釦釦釦。通通通通通。笑笑笑笑笑。今日は初めて娘が一人でパジャマに着替えた。癇癪を起こすこともあったが、達成感に溢れたその笑顔は何よりも輝いていた。ママとパパに近づいてくる娘を優しく抱きしめた。

Pino @pirooooon
すっかり着替えを済ませたらしい先方から、「週末には到着します」との知らせが届いた。金木犀の香りを引き連れて、この町にもやっと秋がやってくる。彼女の年4回の衣替えは、私たち季節係の最も大切な仕事のひとつだ。今年の仕上げは、どの落葉で飾ろうか。期日までに、最終確認を済ませておこう。

三日月 月洞 @7c7iBljTGclo9NE
ゴヤの描いた《着衣のマハ》は、その直前の作品《裸のマハ》の存在を隠す為の物だと言われているんだよ。実際描画を依頼した首相宅には裸の絵を隠す為の滑車装置が備えてあった。
私を描きつつ、そう先生が仰る。
では、ドレスを纏っている私は誰の代わりなのですか?
先生は答えず、遺影を見つめた。

雪菜冷 @setsuna_rei_
フーっと息を吹きかければ一塊だった種はばらけ空へと高く舞い上がる。時に頼りなく時に悠然と、白い綿毛は風の吹くままに旅路を行く。一方私は──。震えるスマホ。着信履歴は上から下まで母。漏れ出るため息。手近な蒲公英をもう一本摘み取る。この風が未来まで届くことを願い大きく息を吸い込んだ。

黒野綯路 @High_Delight
果てしない空を飛ぶ。羽を休めたことはない。足を地に着けたことはない。姉妹たちも皆そうだった。生まれたときから空の上。友人たちはそうではない。故郷の話を聞かせてくれた。彼らも今はもういない。私は独りぼっちで飛び続ける。真っ青に染め上げられた丸い星を眺めながら。ぐるぐると飛び続ける。

いのうえ @inoue140
「花火って狼煙から生まれたんだって」人混みの中、空のを見つめ着物姿の君が云う。漂う火薬のにおいに僕は少し咳き込む。熱気に参ってしまった僕は、「またラムネが飲みたい」とこぼす。
「西洋の言葉を使うな!」と憲兵の怒号。手に持つ銃は射的のためじゃない。いつかふたりで花火を見れるだろうか。

モサク @mosaku_kansui
このゲームは初めて肺に空気を取り込んだ瞬間に始まった。頑張れ頑張れと励まされ、ルーレットの目の数だけ着々とコマを進めてきたはずなのに。ふと足元を見ればマスは真っ白で、上がりの見えない道が靄の中に続いている。私はお気に入りのガラスペンを取り出した。マスに何を書きこむかは意のままだ。

御二兎レシロ @hakushi_tsutan
還暦を過ぎてから着付けを習い始めた祖母は、よく私を練習台にした。私も小遣い目当てに喜んで帯を巻かれたものだ。祖母は後に師範の資格も取った。成人式の日に振袖を着せてくれたのも祖母だ。今日の着付けはプロに頼んだが、祖母の方がずっと上手。鏡に映る真っ黒な着物は、始終ぐんにゃり歪んでる。

はぼちゆり @habochiyuri0202
人型ロボットが流行った。しかし外見なんて最初だけで生活自体に変化がない為、同じ行動を繰り返すロボットはもはや背景だ。それがなんだか嫌で名前を付け、化粧をして、服も着せる事にした。無表情にテキパキと仕事をこなす様子に冷徹さを見たが、これなら少しはそれも緩和され、あれ?踊り始めたぞ。

10月2日

藍沢 空 @sky_indigoblau
素晴らしい舞台だった。繰り返すカーテンコールは拍手喝采に包まれ、主演女優は大きな瞳を潤ませて去って行った。客席が明るくなると、席に着いて退場の順番を待つ。まるで無理やり夢から醒まされるのを引き延ばされるようだ。ここを出ればまた、冷蔵庫の中身を心配しつつ献立を考える時間が始まる。

黒野綯路 @High_Delight
老人が鎚を振る。金属音が響く。幾度も幾度も繰り返し。使い手に無敗を約束する刀こそ名刀と信じ、彼は鉄を打ち続けていた。老人が鎚を振る。打撃音が響く。彼の表情が落胆に歪んだ。遠い終着点を目指し、溜息一つを残し去っていく。失敗作を握り倒れ伏す貴方には、老人を見送ることしかできなかった。

久保田毒虫 @dokumu44
隣町からミサイルが着弾する。爆風が私の頬を撫ぜる。隣町からミサイルが着弾する。悲しみが友の頬を撫ぜる。悲しみとミサイルの速度が比例してゆく毎日。私はどうすればいいのだろう。何をすればいいのだろう。涙が出ないのはどうしてだろう。赤に染まった私の心に、今日もまた、ミサイルが着弾する。

ヤギチュール @knoino15937
十月の夜は冷たく、コンビニに行くにも重ね着がいる。袖を通す煩わしさの中、なぜこんな窮屈なものを、という問いが生まれた。赤子は全裸で産まれてくるのに、人は己を布で縛る。その理不尽を脱ぎ捨てた。すると警察に捕まった。私は赤子のように泣いた。服とは私を縛るものではなく、守るものだった。

県春人(サイトからの投稿)
電車に2人の女性が来た。
「あんた綺麗よ、ほんま」
「よう言うわ、私の顔、お好み焼きやん」
「お好みて何よ、生きもんちゃうやん、粉もんやん」
乗客は笑いにより呼吸を奪われ、車両の酸素濃度は19%と化した。
正に空気を意にも介さない2人を乗せた電車が次の駅に着くまで、災害は続いた。

冨原睦菜 @kachirinfactory
地球上の人間…と括らなくてもいいな。地球外生物も含め、老若男女問わず、ありとあらゆる生命体が、持った途端に無条件で格好良く見える最強の小道具は【ギター】だ。弾けなくてもいいんだ。持つだけでいい。ミスマッチな格好ですらかっこいいであろう。この着眼点、ノーベル賞モンだと思わないかい。

富士川三希 @f9bV01jKvyQTpOG
桐箱の中の綺麗な藤色の着物を見せて「おばあちゃんのだよ」と母は言ったが、私は首を傾げた。着物を持ち上げた母が「あ、おばあちゃんの匂いがする」と言って着物にスンッと鼻を近づける。私もそれに倣い鼻を近づけた。だからおばあちゃんに会ったことはないけれど、おばあちゃんの匂いは知っている。

はぼちゆり @habochiyuri0202
給料も入った事だし新しい機械を買いに行こう。デパートに着くと店員ロボットやってきて「何ヲ、オ求メデスカ?」と発音する。ぐるっと店内を眺めたがどれも変わり映えしない。「画期的な商品はないのかね?これでは妻にまたドヤされる」「空気清浄機ナド如何デス?」「なるほど面白い、君を貰おう」

今村スイ @tsuduru_0716
成人式の振袖を選ぶのには、さして難儀しなかった。鶴を刺繍した着物に、帯はこれを合わせて。お目の高いお嬢さまですねと言われて、幼い私に姉様人形を折ってくれた祖母のことを思い出す。もう、随分昔に亡くなったんですけれども。微笑んで頷く女将の顔が、どことなく祖母のそれに似ている気がした。

南木憂 @____ynmk
幼い頃に両親を失ってからというもの、冷えた家々を流転してこの場所に辿り着いた。温かい食事に布団……涙が出るほど嬉しい筈なのに、なぜだか辛かった。ここでの生活が幸せであればある程、両親と過ごした日々を思い出し、この人達と本当の家族じゃないことを思い知らされた。

10月1日

櫻井さくら @NThealfee
その靴下は普通に履かれることは滅多にない。裏返しのままで爪先にナマズの髭のように伸びた糸が表に出ている。かかとが前でつま先が後ろ。靴もズボンも、サイズが大きかろうが小さかろうが、無理やり足を突っ込んで、とにかく入って着られればいい。こんなアイツだけど俺達には最高のリーダーだから。

左右 @sayu_tokaku
長い間、誰も袖を通さず古い箪笥の奥で眠り続け人の手にも触れられなかった着物が今、私の手元で鮮やかな紅葉を思わせる朱色を放ち、古さなど感じさせぬ温かみがさらりとした生地からも伝わってくるようだ。駆け寄ってくる上気した頬の子を引き寄せた。これ、ママも着たのよと広げ、身に充ててみせた。

櫻井さくら @NThealfee
その靴下は普通に履かれることは滅多にない。裏返しのままで爪先にナマズの髭のように伸びた糸が表に出ている。かかとが前でつま先が後ろ。靴もズボンも、サイズが大きかろうが小さかろうが、無理やり足を突っ込んで、とにかく入って着られればいい。こんなアイツを受け入れられなかったら解散だから。

たつきち @TatsukichiNo3
「着服した金を全て返すなら何もなかったことにしてもいい」「返せるくらいなら着服などしない」「そうだな。ならどっちを選ぶ?警察に行くか?ここから飛び降りるか?」「警察に行くよ」「そうか。仕方ないな」上司は俺の背中を押した。ビルの下で救助マットを広げ待機する警察のもとへ落ちて行った。

石森みさお @330_ishimori
人類が超能力に目覚めた世の中で、私の力は軽い物を高く飛ばすだけ。超頭脳や未来予知なんて有能な人達は次々宇宙へ進出していった。向こうには豊かな資源と美しい未来があるそうで、ずっと誰も帰ってこない。未来に着いたらお返事くださいと、私は夜空に手紙を飛ばす。めっきり静かになった地球から。

久保田毒虫 @dokumu44
「退院したらこのワンピースが着たいの。買ってね」スマホの画像を私に見せて、妻は笑顔で戯けてみせた。妻は末期の癌だった。病魔は妻を蝕んでいき、妻はこの世を去った。私は泣き暮れた。不意に妻の声がした。「何泣いてんのよ。あなたがここへ来る時はあのワンピース持ってきてね」

冨原睦菜 @kachirinfactory
今宵の宴、ドレスコードは【甲羅】だって。何よ、それ?鼈甲のアクセサリー着用なのかと問い合わせたら、返信はひと言。「いえ、甲羅です」だって。近所の川に住む河童に甲羅を貸してと連絡したら、今晩に限って全部貸し出しちゃったって!スッポンなら空いてるって言われても高級品。レンタル高いし!

酒匂晴比古 @sakoh_haruhiko
「何に生まれ変わりたい?」死ぬ間際に声が聞こえた。神か仏か知らないが、いつもお節介な奴だ。「いえ、アッシはこれまでどおり、のったり生きとうございます」前に一度だけ、出来心で骨のある身になったことがある。あんな窮屈な一生はもうこりごり。「そうか。ではお前は、次も磯巾着のままで」

せらひかり @hswelt
外から帰ると、着心地のいいシャツに着替える。すっかり寝巻きみたいなそれは、私が赤ん坊の頃に縫われたものだ。私が生まれた明け方の空に、両親が布を広げて、景色を写し取った色柄。これに包まれると、懐かしい匂いと記憶が広がっていく。どんな魔法も使える気持ちで、家事を済ませて、食事をとる。

きり。 @kotonohanooto_
空を飛ぶ。ふんわり、風にさからわずに。今日は、雲がきれいだ。青い紙に自由きままに筆を走らせたよう。
すこしずつ高度を下げて、ゆっくり、ゆっくり、おりる体勢に入る。そうして、ひとのいない芝生を見つけて、ふわっと着地する。裸足に、芝のさくさくした感触が伝わる。この瞬間のために、飛ぶ。

二度なかず @Futatabi_Nakazu
単線の駅に構内らしき構内はなく、打ちっ放しのコンクリートは底冷えがする。ホームに立てば一寸先は星のない闇。急に目映くワンマンカーが入る。けたたましいブレーキで停止した列車の行先表示に「執着駅」とあって、すぐ「回送」に変わった。近く、廃線だろう。あいつに握らせたのは回数券だったが。

太陽や月など @as1mind1soul
姿を現した猛獣がサバンナを彷徨う私に牙を剥く。《文明と名付けて自然破壊を正当化するお前らを絶対許さない。命が惜しいか》私は道具を捨てて着物を脱ぎ、自然に還ると決心した。《非力は格好の餌食だぞ》否、私には薬草で君達を治癒する知恵がある。《では一緒に》彼は私を乗せて群れへと疾走する。

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