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2018.03.29 希望について

※縦書きリンクはこちらから https://drive.google.com/open?id=1s8PgqjpsiDA22ygAVEVbHavgO2bI3idm

 十代の終わりに、やっと人生が始まったという感じがあった。

 それまでだって音楽も映画も漫画も、多分小説も、そこそこは好きだった。自分の人生の中心にはこういうものがあって、あり続けて、こういうもののために自分は生きていくのだろう、と、予備校に向かう自転車にまたがって、まだホイール式のiPodでダイナソーJr.を聴きながら予感していた。
 一本逃すと三十分次の電車が来ない田舎の駅だったけど、一、二本逃すなんて全然平気だった。遠くまで渡っていく電車線が何かで揺れるのを眺めながら、延々と音楽を聴いていられた。何かこれ主人公が本当のこと言ってないかもしれないらしいよと聞いて、背中をむずむずさせながら夢中になってライ麦畑を読んだのもその頃だった。よくわからないまま観終わった2001年宇宙の旅を、ネットでひっかかった解説を読んでから観直して、ははあ、と思ったのも。汗をかくのも、日に焼けるのも、今ほど気にならなかった。

 大学に入ったらバンドをやる、ということだけが希望だった。
 書いてみるとすごくしょうもないことのような気もするけれど、それは希望以外のなにものでもなかった。誰かと一緒にスタジオに入って、ドラムを叩いているところを想像するだけで、一日中予備校の地下の個人学習ペースに張り付いていられた。気が合うやつがいるかどうかもわからない。どんなサークルがあるかもわからない。それでも希望があって、本当にそれだけで明日もめちゃめちゃ勉強するぜと思えた。純粋だったからとか無鉄砲だったからではなくて、これから俺の人生はより良くなっていくんだ、という根拠のない希望があったからに違いなかった。

 いざ大学に入ってみたら、希望は一時砕かれた。希望ではなく、期待が高すぎた。自分の設定した期待値のバーを、現実が超えることはなかった。
 今は、何もそんなことくらいでそこまで絶望してしまわなくてもとか、期待と希望は違うから、期待の方はあまり高く見積もってはいけないんだとか、そんなようなことを冷静に考えられるけれど、当時はそれなりにショックだった。だからなのか、自分が大学生だった頃のことを思い出すと最初に出てくる光景は、小さい埃がきらきら舞う自分の部屋の天井ばかりだ。

 それでも後に、またちゃんと希望が生まれた。念願のバンドも結局後々になってから組めるのだけど、それはまた別の話だ。
 THIS IS(NOT)MAGAZINEという、今思えばあれは雑誌とジンの間くらいにあるメディアとの出会いだった。そこからTRASH-UP!!やメランコフ、IN/SECTSといった、インディーズマガジン(と言い切ってしまっていいのか微妙なものもあるけど)をたくさん知った。
 新しい希望だった。「個人が発信できる時代になった」という、これも希望めいた言葉が、当時TwitterなどのSNSが流行り始めると同時にたくさん聞こえてきたけど、140字で出来る発信って何だろうと思っていた。
 GIMPというフリーの画像編集ソフトがある。大学指定のウィンドウズでも動く。それでテキストやイラストや写真を載せて刷る。千円くらいするけど、中綴じ用のホチキスを買ってきて、それを綴じる。
 そういうことの延長線上に、ノットマやTRASH-UP!!が、本屋に並んでいる本があるということが、衝撃であり、希望だった。とりあえず歩き始めてみれば、ああ、遠くに見えていたあれもちゃんとここと繋がっている地面の上にあるんだな、と目が明くような感じだった。
 幾つかの雑誌を作って、僕も大阪の本屋に置いてもらったりした。

 そんな風に、十代の自分は、今小説を書いてアップしている自分と、うっすらとした繋がりを保っている。ちゃんと繋がっているなあと思える。あの時抱いた希望は間違いではなかったのだ。なかなか読む人が増えないなあと悔しがりながらも、何故かとにかく書き続けてアップし続けられている今の自分が、あれが確かに希望だったことを証明しているような気がする。

 若林恵さんと青木耕平さんが、メディアについて、そして希望について話しているのを読んで、そんなことを思い出した。
 たとえ今小説なんてものがウェブメディア上でバズることが絶対にないとしても、僕はこれで希望を語っているのだと思うことに決めた。これは希望です。これからもっとより良くなっていきます。知って特するような情報は何もないけど。当たり前に必要なものとして、希望を発信していきたい。


若林恵さん、青木耕平さん対談は以下より。

 書く人/編集する人、そしてメディアが果たせる役割とは             ──編集者 若林恵×クラシコム 青木耕平対談 前編            https://kurashicom.jp/3038
 情報はいらない。未来も語るな。必要なのは「希望」である            ──編集者 若林恵×クラシコム 青木耕平対談 後編            https://kurashicom.jp/3059

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