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少女の日記としてではなく、一人の人格ある人間のものとして「アンネの日記 増補改訂版(文春文庫)」を読む ⑧ アンネリーゼは成熟し、巣離れをする時季にはいっているのに・・・

脳科学者は「15歳は大人脳」だと言う。
アンネ(本名はアンネリーゼ)はこの時14歳であるが、あと数か月で15歳を迎える。
彼女が少々早熟であることを考えると、見た目は痩せた少女に見えたかもしれないが、中身はもう既に立派な大人なのである。
異性に焦がれ、自分をいつまでも「子ども扱い」する両親から離れる時季を迎えているのに、物理的にも精神的にも、それをさせてもらうことができず、苦しんでいることがうかがえる。
ちなみに「巣離れ」とは鳥がいったん巣を飛び立った後、自分の能力を吟味しながら、徐々に元の巣から離れていこうとする時季にあたる。

一九四四年二月二十八日、月曜日
だれよりも親愛なるキティーヘ
まるで悪夢になりかかっています。
夜にだけでなく、昼間にも彼のことが一刻も頭を離れないのに、じっさいにはすこしも彼に近づけません。
それでいて、だれにたいしても、なにひとつさとらせてはなりませんし、ほんとうは絶望にひきさかれているのに、陽気な表情をくずしてはならないのです。
ぺーテル・スヒフとペーター・ファン・ダーン、ふたりがひとりになりました。
わたしのたいせつな、すてきなひと、死ぬほどあこがれるひとりのひと。
おかあさんには我慢がなりませんし、おとうさんはやさしいけど、それだけにいっそううんざりさせられます。
マルゴーにはだれよりもうんざりします。なぜかといえば、 いつも自分のかわりに、わたしにだけ朗らかな顔をするように期待しているからです。
こっちはただ、ほうっておいてほしいとしか願っていないのに。
わたしが屋根裏部上がっても、ペーターはそばへはきませんでした。
まっすぐロフトヘあがって、なにか大工仕事を始めました。
ぎいぎい、ごとごと、 いろんな音が聞こえてくるたびに、勇気がしぼんでゅくような気がして、みじめな気持ちがつのってきました。
どこか遠くの鐘楼で、「身も清ら、心も清らに」と、カリヨンがメロディーをかなでていました。

そう、わたしはおセンチになっているーーそれはわかっています。
絶望にとらわれ、ばかげたことばっかり言ってるーーそれもわかっています。
ああ、どうかわたしに力を貸してください!
じゃあまた、
                      アンネ・M・フランクより    

アンネの日記増補新訂版 p343 p344

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