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藤井聡太棋聖誕生とそれに対する想い

 2020年7月16日、藤井聡太七段(当時)が渡辺明棋聖(当時)との棋聖戦五番勝負を制し棋聖のタイトルを獲得した。17歳11ヶ月、史上最年少でのタイトル獲得だ。

 私が将棋を知ったのは2017年、藤井聡太棋聖がデビューし、公式戦29連勝の記録を打ち立て、羽生善治九段が竜王の永世位を獲得し永世七冠の資格を得た年だ。私はそれまで将棋にはほとんど関心がなかった。かろうじて駒の動かし方が分かる程度だった。しかし、ある日のテレビニュースで“藤井聡太四段が大記録を打ち立てた”とのニュースが報道されていた。初めはそれほど気に留めなかったが、毎日のようにテレビで将棋を取り上げるため徐々に興味が出てきた。そこで私はスマホで将棋が出来ないかと思い将棋ウォーズをインストール、早速オンライン対局をやってみた。全く勝てなかった。今にして思えば定跡も戦法も知らないのだから当然だろう。だが当時の私は(負けっぱなしでは追われない)とネットで将棋の戦法や定跡を調べた。初心者向けの戦法と最低限の定跡を覚えて実践。しかし勝てない。また調べる、実践、勝てない。それを繰り返す内に一局、たまたま勝てた。初めて覚えた戦法である矢倉を使っての勝利。あの時の嬉しさは今でも忘れない。それから私は将棋にどっぷりとハマり1日中将棋を指した。道場にも通うようになった。初めのうちはやはり勝てず、平手での初勝利を上げる頃には通い初めてから1ヶ月が経っていた。それからも指し続け、ドンドン棋力も上がっていった。それを実感するのが楽しくてしょうがなかった。しかも強くなるにつれて将棋の難しさもより一層分かってくる。強くなるほど難しく感じるなどそんなゲームがあるのかと。「こんなに面白いゲームがあるのか」と感動を覚えた。

 将棋を覚えてからは将棋界の動きも追うようになった。中継がある日は必ず1回は放送を見ていた。将棋を知ったきっかけである藤井四段を中心に見ていたが、次第に他の棋士も気になるようになり、藤井四段以外にも好きな棋士が何人もできていた。

 私が将棋を知ったのも、好きになったのも藤井棋聖のおかげと言っても良いように思う。彼がいなければ将棋の中継を見ることも、道場に通う事も、大会に出ることも、将棋そのものを知ることも無かった。だから私は彼の事を尊敬すると同時に、将棋という趣味を授けてくれた恩人だと思っている。誠に勝手ではあるが。

 そんな藤井聡太がタイトルを取った。いつかは取ると思っていた。しかしこんなに早く、しかもあの渡辺明から取るなどとは思わなかった。棋聖戦第4局、終盤で藤井七段が勝勢になり、後は上手く着地出来るかという局面。藤井の終盤力の高さから言ってそのまま決めきる可能性は高かった。だが私は怖くて怖くて、時折画面から目を逸らしながら応援していた。そしてついに渡辺の王将を必死に追い詰め、最後の王手ラッシュもかわしきって、渡辺棋聖が投了した。人の事のはずなのに自分の事のように嬉しかった。思わず「おお!」と声を上げた。ついにこの日が来た、きっとこの日から藤井聡太の伝説は始まるのだろう。そう思った。

 これから藤井聡太はいくつタイトルを取るのか、彼は一体どこまで強くなるのか。新しい時代の始まりは寂しくはあるが、それ以上に嬉しいものである。藤井聡太という将棋界に名を刻むであろう棋士と同じ時代を歩めること、こんな幸せはない。これからも将棋界では様々なドラマが起こるだろう。藤井聡太の快進撃、それを阻む若手棋士と意地を見せるベテラン棋士、これを生で見られる事を楽しみにしつつ、これからも将棋界を見ていきたい。