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エロゲ日和

先日自分の承認欲求を満たすためにマシュマロを応募したんだけど、エロゲの話が立て続けに二回来たので思い入れ深いエロゲの話をしようと思い立ちました。


とはいえPCでビジュアルノベルゲームをやるなんてのも時代遅れな気もしてるんだよな。昨今DL販売のサービスが行き届いてきたとはいえ、未だにwindowsXPとかいう二世代遅れのOSなきゃそもそもプレイ出来ない名作が多々あるって地点でもう間口が極端に狭い。その上フルプラは高い、時間取られる、古いの三重苦。ソシャゲ全盛の時代にこれに手出そうとする変態が数で上回るならそんな国は滅ぼした方が世のためだと思います。

それでも俺がこの形式の物語たちに触れることに意味があると思うのは、この形式だから出来た表現があるからです。それは肉体関係を描くことで構成される生々しさだったり、全体のシナリオを用意し各攻略可能キャラを軸としたルートをいくつかプレイさせることで少しずつ明かされていくシステム上の楽しさだったり、音楽と絵と文章を一体で浴びる没入感だったり。時間がかかるからこそ自分の生活と同化して体感する物語経験は自分の人生に確実な爪痕を残してくれる。あとこれ逆に軽視されがちだけどやっぱキャラに感情移入すればするほどエッチシーンは嬉しい。歴史を辿れば実はシナリオ重視(もっと言えば泣き特化)した葉鍵系統のエロゲはむしろ新参で、90年代前半はelfが同級生で当てるまではエロ本と同列扱い(沙織事件で検索)されるくらいにはエロが主流だったらしい。こんだけベラベラ喋っといてなんですが一切この辺触れていません。じゃあ今の解説はなに?

とまれ、時代遅れを承知した上で失くしてしまうにはまだ惜しい文化圏なワケ。ということで今回はマシュマロで答えた五つのエロゲについてちょい掘り下げます。

僕は天使じゃないよ

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イラスト、音楽は「さよならを教えて」でおなじみさっぽろももこさん。時代背景は大正末期から昭和初期。関東大震災後、太平洋戦争前ですね。天災と戦争のはざまの不安定な時代の空気にあてられたSM好き知識人、市蔵おじさんが入会したクラブの先で出会い、クラブの主催が事業失敗したことで自分のものになった女の子柘榴ちゃん、文通してる表紙の女の子百合乃ちゃん等と、不安や絶望から逃れるために歪んだSMプレイをしまくるって内容。

退廃的なセックスや時代背景に則った絶望的な空気感、シナリオ全体から見ても割と救いない展開なんですけど、そんな中で育まれてる切実なまでの愛情の描き方や醜い容姿からくる主人公の屈折したコンプレックス、やたら濃い思索の過程からその破滅の仕方はある意味救いだったんじゃないかな~とも取れる描き方をしている名作です。最後に解放される小梅ちゃんの手記の読後感、アコギのBGMのオシャレさ含めてオススメです。批評空間のアホどもが使えないに投票していますが使用感、安さ、短さでも手出しやすいと思います。DLsiteでも出ているので是非。

水月

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結構伝奇モノの色が強いです。内容ははっきり言って民俗学とかそっち系で小難しい。「認識」が一つのテーマとしてあげられるので、各ルートごとの整合性について随所でポイントが散りばめられていますが考えて補完する部分は多いです。話に奥行きがあるとも言えるけど、初見でん?となる可能性は正直否めない。でもビジュアルを検索してもらえると早いんですけど、絵柄が凄い今寄りなんですよね。

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本作で一番人気のメイドさんです。可愛い。舞台は夏の田舎町。夏の原風景を確実に埋め込んでくるようなエロゲとしてAIRと紹介を迷ったんですけど、Key系列はのちにONEを紹介するので見送ることになりました。キャラクターが素直で可愛い女の子だらけで小難しい世界観によらず、攻略によって全然印象が変わってくる上展開もかなり違ってくるので読み応えはバッチリだと思います。人気作なので移植も当然されていますが、濃密な一夏の空気に麦わら帽白ワンピの女の子と不穏さ漂う時間を過ごして心を通わせていくのにHシーン直前でぶつ切りは流石に萎えると思うので普通に18禁を買ってください。文章的にも好きな言い回しがたくさんあったので是非。

こんなこと言いながら自分はいっぱい漏らすのも見どころです。

家族計画

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シナリオは山田一名義だったころの田中ロミオ。「ユメミルクスリ」、「CROSS†CHANNEL」、「人類は衰退しました」で有名な人間ですね。これのオープニング、KOTOKOの「同じ空の下で」はあまりに名曲なので絶対にどこかで聞いてください。

相互扶助計画「家族計画」。それぞれバックボーンが重すぎる人間たちが互いに身を寄せ合い「高屋敷家」として過ごそうとする物語です。ロミオの作風を知る人間ならわかると思いますが、何かしらに欠けた人間が集まったところで他人は他人。主人公含めこの家族計画に入った人間たちは最初のほうは凄まじいくらいバラバラですが、立案者の父「寛」とメインヒロインの三女「春香」のムードメーカーっぷりで結構楽しい日常も描かれており攻略を通してヒロインだけじゃなく他の人間たちも他人ではなく、本当の家族として人間関係を深めていくところなどロミオの人間的な価値観がにじみ出ていて魅力的な傑作です。特に欠点や現実的に折れなければいけないシーンで突き放すんじゃなくて、優しく感傷的に文章を書くっていう点で一番いいところが出てる作品だと思う。感動系っていうとちょっと薄っぺらいからあんまり使いたくないけど。リメイクだと絵柄に違和感があるので、俺は元の方をやることを勧めます。これもDLsiteで購入できます。

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好きだったのは茉莉ルート。劣悪な生まれ育ち方をしたにも関わらず過去を美化し、人に縋らないと生きていけない弱さを持った人間性が愛おしすぎるのもそうですが、レイプで茉莉を生んだ癖してその茉莉もレイプしようとするヤバい親からそれぞれのやり方で守ろうとする展開が、今まで突き放したりコミュニケーション不全だったりする集団だった「高屋敷家」が「家族」になるシーンも相まって最高だった。

ONE ~輝く季節へ~

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Key系列で紹介されがちだし、実際そのつもりだけど会社自体はKey設立前の「Tactics」が出している。ただ制作スタッフの麻枝、久弥、いたる、折戸等が会社との折り合いが悪くてKeyを発足する理由になったり、だーまえがメインヒロインなどのシナリオを担当したにも関わらず茜(今の俺のアイコンの女の子)をはじめとするもう一人のメインライター久弥のシナリオがあまりに好評で外れライター扱いされて落ち込む、その頃バカみたいに売れまくってたTo heartみたいなエロゲを作れって言われた影響か、マルチルートのような雰囲気をさらに洗練させて泣きゲーって呼ばれるジャンルを確立させるに至る等掘れば掘るほど伝説が出てくる一作。奈須きのこ、元長征木あたりのシナリオライターの原点を知る上でも良いと思います。

「えいえんはあるよ、ここにあるよ」でおなじみ、ずっと歳をとらなくて傷ついた心を癒してくれる女の子がいる「永遠の世界」に妹を失くして以降関わってしまった主人公、折原浩平くんが高校二年の時からどんどん自分が存在が希薄になって消えてしまうため繋ぎとめてくれる誰かを探す物語。メインヒロインであり永遠の世界の女の子の原型となった瑞佳を除きほとんどヒロインがハンディキャップを背負っているのが特徴で、みさき先輩ルートでは盲目設定なのになぜ当たり前のように歩けていたかが逆にキーポイントになるなど、展開と演出が上手い。

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アイコンから分かる通り俺は雨の日にいっつも傘をさして誰かを待っている女の子、里村茜ルートが凄く好きです。ちょっと好き過ぎて論理的にここがどうとか言えないんですけど、BGMの「雨」、少しずつ変化する表情の一個一個に意味を見出せるいたる絵、クライマックスに至るまでのすべてが好き。特に最初と最後で同じ状態なのに、積み重ねた文脈で感傷的な意味合いを付け加えるの、ずりーよ久弥。Hシーン要らないとされがちなKey系列のゲームですが、茜くらいはちょっと見てってもいいんじゃないかな。

だーまえシナリオのほうは久弥と比べると不評でKanonの真琴シナリオから覚醒したって本人が言ってるんだけど、クセックセな文体と突飛なギャグシーンを受け入れられれば普通に読めるし泣けると思うので、この辺は人によりけりかな。久弥も久弥でだーまえがいなきゃ泣きの方向は確立しなかったとも言ってるし、シナリオのほうもMOON.でだーまえのシナリオを見て奮起したっつってるんだし、この辺だーまえの久弥神格化も相まってる評価だと思う。キャラごとにこれはどっちが書いてるシナリオなのか意識して楽しむと発見があるかもしれません。

あと誠也の部屋見ないと中々攻略はキツイと思います。

腐り姫

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ライアーソフト出の伝奇モノ。掛け値なしに一番好きです。ゲーム性が結構不親切であるにも関わらずエロゲの話すると大体セットでこれを勧めるくらいには傑作。

まず表紙のビジュアルがいい。安楽死と廃墟って文字と一緒に不気味な目をした幼い女の子が振り向きざまにこっちを見ているこの絵だけでまず100点。で、ADVという攻略してクリアしていくシナリオ方式なのを逆手にとってSF交じりのループもの(これはもう最初の方の段階で分かるのでネタバレでもなんでもないです)を描く風呂敷の広さ、謎、わくわく感は星空めておの作品の中でも随一。時代は現代なんですけど、主人公五樹くんの故郷が昭和の街並みがそのまま残っているような田舎町なんですよね。BGMは「翠の森」をはじめとする夏のノスタルジックなピアノ曲が多いのも良い。

ループを前提とするためか、期間は四日とかなり短く主人公が忘れていた記憶をループの度に取り戻していくも、暗い話ばっかりです。ヒロインも死んだはずの妹、人の欲望を満たし腐らせていく「蔵女」をはじめとし、どいつもこいつも真っ当な奴はいません。さらに、攻略して進めていくというメタ構造を逆手にとってドンドンシナリオが進んでいくため、一度心を寄せたヒロインでも最後「赤い雪」として願いが叶い消えてループしたあとは「殻」と呼ばれる、存在はするが主人公と最低限の会話だけ行い攻略不可になっていくため、そこから感じる世界全体の構造の悲しさも上手く表現されています。

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「近親相姦」をテーマとしているのでHシーンも青春の一コマと呼ぶには爛れすぎているけど、自身の業に苦悩し続けた結果の行き着く果てとして納得できるものだったと思う。この辺、プレイしなおしてもなお見え方が変わってくるものもあるので思い返してプレイし始めても面白いです。TRUEENDとして「リフレイン」は凄く良くできていた(作品のコンセプトと雰囲気的に)と思うけど、「蔵女」と「五樹」二人の関係として永劫からの終わりっていう救い、勝ち逃げの展開を描いた「腐爛」ENDは三秋縋が好きな人間には物凄い刺さる終わり方だと思うので是非プレイしてみてください。

ここまで悲しい暗いを散々強調しましたが、実は裏要素として「盲点」というメタ的にキャラクターが作品のキャラに突っ込むモードが存在してたり、全裸ファイトとかいう小シナリオが仕込まれてたりとギャグ要素もあります。

BGMの良さにも触れたけどノイズなどの音関係のこだわりも結構しっかり作られていて、人の欠点や歪んだ部分で描き分けられた生々しいキャラ、ビジュアル、文章揃った物語体験としてもっとも勧めたい作品です。

腐り姫 Liar-soft https://www.dlsite.com/pro/work/=/product_id/VJ002520.html

結構安くない?

あとがき

天気の子がゼロ年代のセカイ系エロゲだなんて話がそこかしこでされてるんだけど、ちょっと俺は注釈加えたくて。ていうのも、天気の子はゼロ年代のころのセカイ系エロゲじゃないんだよな。いや当たり前のことを再確認したいわけじゃなくて、要素要素として拾って見た際としてってことだよ。もっと正確にいうと、須賀さんを主人公に過去を描いた場合そういうゼロ年代のセカイ系らしい、セカイによって女の子と離別してしまうか転生先を描いたビターエンドが定番だった物語を想像しうるってだけで帆高はむしろ、それを飛び越えた先で陽菜の手を握ってセカイ(ここも今の社会をキチンと描き切った上なので、よりメッセージ性の強めることに成功してる)を切り捨てた爽快感やそれでも二人で背負って生きていくっていうところに「先」を見出せる作品だからこそいいんだよな。俺らが好きだったそういう作品の中核にいた新海誠が、それを描いたからこそ万感の思いをもって「大丈夫だ」って言えるんだよ。

ただ、切り捨てるんじゃなくて今までの文脈を再確認した上で「越え」てくれた作品で。だからこそアニメや漫画ではない、独特な物語形式としてのエロゲを俺はもっといろんな人に体感してほしいな~と勝手に思ってる。俺がそういう物語を自分の人生の文脈に加えて生きてきたから。冒頭でも言ったけどもう時代遅れなんだよな。エロゲって。でも今鬼滅だとか、盛り返してきた展開が特殊なジャンプ漫画たち、増えるネット配信の同接、「あの頃」って枠組みにいた作品たちのリバイバルの流れを見てると、少し前の時代よりちょっとはこういうのも分かってくれるんじゃないかなって希望を感じてる。

もうこういうの古いよって駄目だしするのでもいい。今メインカルチャーになりつつある「アニメ」や「漫画」、「ゲーム」って文化に昔こういうジャンルの物語が台頭してたんだって、そういう土壌で育ってきた奴らが「なのは」だったり「まどマギ」だったり「無能なナナ」だったりを作ったんだ、って。俺の人生で忘れられない作品を紹介することで伝えたかったんです。


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