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商業連載を終えて思ったこと

こんにちは、幌です。

毎度こんなところまで
見に来てくださりありがとうございます。

「針と羊の舟」という漫画の連載が終わりました。

これはKADOKAWAから2ヶ月に1度刊行されている
漫画雑誌に掲載されていたもので、
ペットロスの男子大学生が
小学生の女の子に羊毛フェルトを教わる漫画です。

カドコミで第一話が無料で読めるので
興味があればどうぞ。

商業誌での漫画制作自体が初めてだったのですが、
それがそのまま連載になってしまったことは
良かった点も悪かった点もあります。
手探りで始めた商業誌連載を終えて、
色々と考えていたことを書いていきます。

まず前半では同人活動と商業誌連載で感じた違い、
後半では今回の連載の大まかな反省点について
紹介していこうと思います。

多少長くはなりますが、noteなんて読みに来るのは
読書習慣がある方でしょうから全く問題ないですね。

では行ってみましょう。


同人と商業で感じた違い

私は同人活動を長いことやっていて、
少ないながらもお客さんに直接漫画を
買ってもらうということをしていたため、
それを踏まえると商業連載というものは
孤独な活動だという感覚が強かったです。

読者が数字にしか見えなくなる、
という感覚がとても辛かった。

たとえば、同人誌即売会に出ると
どういう見た目、年齢、性別の人が
どのくらいのテンションで
自分の漫画を買っていってくれるのかが
よくわかります。

この人はいつも買いに来てくれるな、とか、
この人は自分の友達にはいないタイプの人だけど
私の漫画に興味を持ってくれたんだな、とか、
(↑これは結構嬉しい)
何度も試し読みした上で買ってくれた人とか、
「さっき通りかかって気になったから
戻って買いに来ました」と言ってくれる人だとか…

外国人の場合もあるし、
友人のおつかいで複数冊買っていく人もいるし、
事前に目当てのサークルとして
メモをつけてから来てくれる人もいて、
実に様々な人がいるということがわかります。

ここでの「1人のお客さん」はただの「1」ではなく、
その人の熱量や自分との関係性によっては
「5」であったり「10」であったりする。

これが、商業連載をしている間は
「1」が「1」でしかなくなってしまった。

web配信でのランキング順位、
閲覧数、ブックマーク数、
公式アカウントの告知ツイートのいいねRTの数、
コメントの数、単行本の発行部数、
Amazonのレビューの数、などなど

最初に目に飛び込むのは基本的に数字です。

数字って比較しやすい単位なので、
嫌でも無意識に他作品との比較が始まります。
(本来条件が異なるので比較のしようがないはずだが、
 経験不足によりそこまで冷静に見ることができない)

それでどんどん気持ちが落ち込みます。
(最近は考え方を変えたので、
前よりは気にならなくなりましたが)

これが例えば同人誌即売会だと
別に自分の隣のサークルに
すごい長い列ができてたとしても、
そんなに気にならないんですよね。

私のサークルは別に大手でもなんでもないので
列ができることも無いですが、
その少ない数のお客さん一人一人が
自分の漫画を買ってくれたということへの
実感、喜び、感謝の気持ちがとても大きいです。

試し読みした後で買わずに去っていく方もいますが、
そういう人が腕に抱えている他の同人誌を見ると、
まあ自分の作品は合わないんだろうな〜、
ということもわかるので
そんなに落ち込むことも無いのです。

読者の顔が見える、見えないというのは
そのくらい大きな違いがあるということを
連載中に実感していました。

てなわけで、まず連載開始時点で一度大きく落ち込み、
単行本一巻発売時点でも泣いていました
(悲しみの涙)。

他の新人漫画家の方を見ると、
連載開始時や単行本発売時のツイートって
「初連載、嬉しいです!」みたいなのが多くて、
こんな真っ暗な顔してる漫画家
この世で私だけなんじゃないか?
と思ってましたが、実際どうなんでしょうか?

実は、みんな仕事だから
頑張って嬉しそうに見せているんですか?
漫画家仲間が山吹さんしかいないのでわかりません。
(モーニング・ツーで「こどもどろぼう」を連載中。
空き巣と子供の中身が入れ替わる
新感覚「君の名は。」コメディです。読んでね。)

そう考えると、自分にはプロ意識が
まだまだ足りていないということかもしれません。

そんなこんなで散々気持ちが
揺れ動いていたわけですが、ある時点で

「私にとってこの作品は
今後さらに良い作品を作るための
叩き台のようなもの」

という当初の考えを
思い出しました。

この作品が売れるかどうかということ以上に、
この作品を踏まえて自分に何が足りなかったか、
次どうしたら良いかを考えるきっかけを
得られれば、まあ意義があったという考えです。

上記でいちいち悩んでいたようなことを
今後も気にしていたら商業などやってられません。
私は「二度と会社員には戻りたくない」という
強い意志があるのでこの程度の苦労は些細なものです。

それでは早速今回の仕事の反省点と
今後どうしていくべきかを
考えていこうと思います。

反省点は実際は細かく大量にありますが、
書ききれないので大きく分けて次の3つです。

・題材+キャラ設定
・媒体選び
・宣伝、告知

では、一つ一つ書いていきます。


・題材+キャラ設定

見る人の欲望を叶えてあげる、
という視点が足りてなかったかなと思います。

グルメ漫画が人気なのは食欲と結びつくからであり、
恋愛漫画が人気なのは性欲と結びついているから。

その他、不動産の知識が得られる、
ファッションセンスが得られる、
芸能界の裏側が覗ける、
闇金で人生が狂った人ってどんな生活なのか…
といった知識欲が満たせる、などなど。

(この辺りのことはテレ東の高橋弘樹さんの本に
とてもわかりやすく書いてあったのでオススメです。)

そもそもみんな無名の漫画家の漫画を
気にかける暇など無いわけですし、
こういう読む人の欲望を満たせる要素が無いと、
わざわざ時間を割いてはくれないんだよな〜。

キャラクターにしても
アイドル、メイド、ネコ耳、イケメン、などなど、
そもそもこの属性が好きだから
この属性のキャラならとりあえず読む、
眺めたい、という需要があって、
そこに向けて描くというのは
大事なんだとわかりました。

(自分は属性から漫画を読み始めることが
あまり無く、この発想が無かった)

野球少年の漫画をツイッターに載せたときに、
野球のユニフォームが好きな人たちに
大量にフォローして頂いたので、
なるほど、ここに一定の需要があるのだ、と気づき
それからはとりあえず野球で描いています。
自分が描きやすいものと需要が一致するものを
見つけられたらラッキーだと思います。

人は見た目が9割と言いますし、
自分でキャッチーなキャラデザが思い浮かばない場合は
こういう「確立された見た目」を拾ってくるのは
すごく役に立ちます。

・媒体選び

カレー屋を営む男性のYouTubeをよく観てるのですが
その人曰く「とにかく立地が大切」とのことで、
初めて店を出す人は多少高くついても良いから
(↑漫画の場合この「家賃」の概念はありませんが)
繁華街や駅前などの人通りが多い場所に出せ、
ということでした。
「住宅街などにひっそり佇む隠れ家的レストラン」でも
一応問題はないが、認知されるまで時間がかかるので、
それまでに資金が無くなる可能性があり
おすすめはしない、とのこと。

たしかに「隠れ家レストラン」
って高級感があって印象として素敵ではありますが、
それってそこを目掛けて来る人しか来ないんですよね。
(通りがかりに立ち寄る、ということが起きない)

自分が連載していた媒体がまさにそんな感じの雑誌で、
入り組んだわかりにくい道の奥に建っているのです。

こういう店は近所の一軒一軒にビラを撒いたりしない。
宣伝しないことで秘密基地のような存在になることが、ブランドイメージでもあるからかもしれない。
お客さんはその店のオススメメニューの確かな味を知る人だけがはるばる来てくれて、そのメインディッシュのことだけをSNSに書きます。
だってそのためにわざわざ来たのだから。

お通しで出てくるちょっとカリッとした食べやすくて、
まあ、特別良くもないけど悪くもないんじゃない?
っていう程度のおつまみのことなんか知らないし、
わざわざSNSで呟こうとは思わない。

だから、こういう媒体に向いているのって、
既に実績とフォロワー、ファンがいる人、
もしくは無名でも余程魅力がある
新人作家なんだと思います。

そう考えると、自分のような平凡な新人は
繁華街や駅前に店を出すどころか、
もうお宅に出向いて行って「はい、どうぞ!」と
人の口に料理を無差別に放り込むくらいしないと
味を知ってもらえない。
(=ツイッターに漫画の無料配信先の
リンクを貼るだけではなく
そもそもツイート自体に漫画載せる。
もしくはそれ以上)

結論何が言いたいかというと、
ドラフト下位、育成契約レベルの漫画家は
とにもかくにもwebで無料で読めるところに
真っ先に載せるのが一番良いということです。

最後に表紙を描かせてもらったときに、
これは紙の雑誌でなければ得られない経験だな〜とは
思いましたし、単行本の装丁も良い紙質でモノとしての
価値を感じられる仕上がりにしてもらえましたが、
トータルで考えると
自分はweb向きだなと思いました。
(自分の場合は途中からweb配信も
して頂きましたが、そもそも最初から
webメインの媒体が良いと思いました)

・宣伝、告知

商業での漫画制作、となった時に
真っ先に手を抜いてしまったのがここです。
なぜかというと、出版社が担ってくれるという
大きな勘違いをしていたからです。

同人活動だと全て自分でやらないといけないので、
それなりに告知も頑張ってやっていたのに、
「商業誌だから出版社の力もあるわけだし、
自分は漫画自体を良くすることに注力しよう」と
呑気に考えていました。愚か。

同人の時以上に自分で宣伝告知をしていかないと
誰にも気づいてもらえない。
出版社に期待するのは良くない。

しかしここで正直にいうと、
宣伝告知の手を抜いていたのは
「あまり広まって欲しくない」という
気持ちもあったからかもしれません。

今回の漫画の出来に納得もいってなかったし
自信も無かったので、そんなに人に広めようという
気持ちになれなかったのです。

あとは、そもそもツイッターのフォロワーが
1000人以下だと発信してもあまり広がらないので
手を抜いていたというのもあります。

漫画を複数載せて運良くRTしてもらえて
今年ようやく1000人近く一気にフォローして頂けたので
そろそろ本気出すか・・・と最近になって
マーケティングとかコピーライティングの
勉強をしています。


ストーリー展開やセリフ、
作画など漫画そのものの
細かい部分にも改善点はありますが、
今回自分が「商業漫画」を描く上で
感じた大きな反省点は上記の3つです。

賢い人は一作目を出す時点からこれらのことは
理解しているのだと思うし、こういうことって
編集者からもふわっと言われた気もするし、
一般的にもよく言われている気がするので、
「そんなことも気づいてなかったの?」
と思った方もいるかもしれません。

昔からそうなんですが、
私は自分で経験して実感しないと理解できないのです。
(長かった)

そういうわけで、次回作以降は
これらの点に気をつけながら
作品作り&宣伝をしていこうと思います。
なので、今回のnoteを読んでくださった皆さんには
「あ、こいつnoteで書いてたことを
意識してやってんな、必死だな(笑)」
みたいな感じで、
今後の私の活動自体をエンタメとして
消費して頂けたらなと思います。

<おわり>

おまけ

青騎士の表紙を描くために作った雑な3D。
パースが取れないので工業製品は3Dで作ります。

追記

今回の記事についてたろちんさんがnoteに書いてくださったことをきっかけに、再度「読者がただの1に見えてしまう」現象について考えてみました↓


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幌 琴似
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