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ノーアウト満塁で、トリプルプレーをやらかした記憶

WBCや甲子園で野球人気が盛り上がっている。

勝負事なので、「チャンスに打てない」とか「ピンチで打たれた」とか、贔屓のチームの劣勢のシーンはつきものだ。

今日も最終回に村上選手がサヨナラタイムリーを放ったけれど、それ以前の「凡退」こそ、野球というゲームの奥深さ(難しさ、面白さ)が秘められていると思う。よくいわれていることだけれど、イチロー選手だって10回に3回しかヒットを打てない。全盛期だって、3回に2回は凡退している。サッカーの場合はどうだろう。プロフェッショナルな選手であれば、より高い確率でシュートやパスを決めることができるだろう。たとえシュートを外したとしても、「凡退」という見方にはならない。野球は分かりやすく「打てない」「打たれた」が可視化されてしまう。観る側はああだこうだ言えるけれど、当事者はたまったものではないだろう。

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中学校の頃、僕は野球部に所属していた。

いまでも時折思い出すのは、ノーアウト満塁で打席が回ってきたことだ。ピッチャーは制球を乱しており、チームメンバーの誰もが得点するチャンスだと思っていた。……僕以外は。

僕は、もうガチガチに震えていた。

これで打てなかったらどうしよう。そんなふうに考えていた。

僕の打席に限って、ピッチャーは制球力を取り戻す。ポンポンと、2ストライクが入った。ベンチをみると、サインはスクイズ。0ボール2ストライクでスクイズ。

野球に詳しくない人に説明すると、通常ファウルは、2ストライクでは何度打ってもやり直しがきくけれど、スクイズ(=バント)の場合、2ストライクでファウルを打ってしまうと自動的にアウトになってしまう。なにがなんでもフェアゾーンに入れなければいけない。しかもスクイズの場合、3塁ランナーは走る。最悪なのは空振りで、三振に加え、3塁ランナーもタッチアウトになってしまうのだ。

その、最悪の空振りをかましてしまった。(僕は非力のうえ、バントもめちゃくちゃ苦手だったのだ)

3塁ランナーもアウト。そしてなぜか、2塁にいたランナーも飛び出してタッチアウトになってしまった。

ノーアウト満塁が、1点も入らず、スリーアウトチェンジになる。打席で呆然としたのはいうまでもない。

悲しかったのは、誰もフォローしてくれなかったことだ。「どんまい」の一言もない。監督は怒り、チームメイトからは罵声を浴びせられた。後輩の部員も誰も僕に話しかけてくれない。

WBCを見てわかる通り、野球とはチームスポーツだ。僕が所属していた野球部はもともと居心地が悪かったけれど、このときほど居場所をなくしたことはなかった。いま振り返ると、自分に合わないスポーツだったのだから、さっさと引退して別の部活に入った方が良かったのだ。(でも、それは「逃げ」だと思って、行動に移せなかった)

結局、引退まで野球を続けたけれど、あの日々は何だったんだろうと思う。高校では、もちろん野球を続けなかった。キャッチボールだってしたくはなかった。大学で一度だけ草野球に誘われたけれど、内心はドキドキしていた。自分のところにボールがこないよう、強く願っていた。

今は、観る野球は好きだけれど、する野球は好きではない。

それは、ノーアウト満塁で、トリプルプレーをやらかした記憶があるからだ。野球人口が減っているらしい。

もちろん僕も、息子に野球を勧めるつもりは全くない。(本人が「やりたい」というなら話は別だが)

25年前のことだ。

あのときは「自分が下手でごめんなさい」と思っていたけれど、今は声を大にして言いたい。

バントが下手でガチガチに緊張していた中学生に、ノーアウト満塁、0ボール2ストライクでスクイズさせる大人が悪いんだ。

と。

野球の監督になることは今後もないと思うけど、同じようなシチュエーションになったとき、無理強いをするような大人にだけは絶対なるまいと心に誓っている。

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