ヒガシとニシの分断と自由への憧憬を描いたミュージカル「プロパガンダ・コクピット」を観て
3年ぶりとなるミュージカル観劇。
前回は学生運動をテーマにしたミュージカルで、今回はプロパガンダがテーマ。どちらも劇団・ミュージカル座による公演だ。
演出を手掛けるのは藤倉梓さん。10年前、朝鮮半島の38°線を訪ねたときに本作の構想が浮かんだと記している。
もちろん本作はフィクションであり、朝鮮半島の歴史を忠実にフォローした内容ではない。演出家の解釈により、概念としてのヒガシとニシが組み上げられている。コメディタッチの演出や迫力あるダンスシーンも満載で、時折、温かい笑いや拍手が起きる場面もあった。
タイミング的に、どうしてもロシアのウクライナ侵攻による「東西」の対立が頭を過ぎるのは致し方ない。でも、そんな時流も踏まえて観劇できたのは、むしろ幸運だったと断言できる。
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印象的だったのは、速水けんたろうさん演じる父ちゃんがソロで歌い出した場面だ。
「どんな主義でも良い。安心して暮らせれば、安心して寝る場所があればどこでも良い」という言葉は、心を打った。
ヒガシとニシに分断された状態を俯瞰し、「人はなぜ、この地上に縛られているのか」という問いを発する。自由を求めて亡命を決断したセンパイ(演・鎌田誠樹さん)や、鳥のような囚われない生き方を所望するトリオ(演・田村良太さん)とユズ(演・かとう唯さん)にも重なった。
戦争や武力紛争は、どうしても「国家」という枠組みがフィーチャーされる。けれど、板挟みの憂き目に遭うのは、いつも弱い立場の人間だ。
その「声」を、ミュージカルを通して聴くことができた気がする。
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そんなごちゃごちゃとしたことが頭の片隅にあり続けていたけれど、やっぱり、生の舞台を観劇すると元気がもらえるものだ。
全部で20曲以上が披露されたと思うが、バリエーションが豊かで、役者の皆さんが楽しそうに演じ、踊り、歌っている姿を見て、胸が熱くなった。
昨年、コロナ禍で緊急事態宣言が発令されたタイミング。知り合いの俳優の方は、稽古していた舞台が本番直前で中止になってしまった。きっと今回出演している役者の中にも、そういった苦境を経験した人はいるはずで。そういった「物語」を知っているから余計に、舞台上の皆さんが輝いてみえたのだ。
舞台って良いなあ、ミュージカルって楽しいなあ。
そんな感想に浸れたことが嬉しい。
数年前のような「ふつう」の日常は、きっと戻ってくる。そんな希望を感じた初回公演だった。
今週末にかけてのチケットはまだ発売中のようで、もし時間がある方はぜひ観劇に出掛けてみてほしい。
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