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百田尚樹『日本国紀』で北方領土問題がまるで無かったような扱いになっている件

『日本国紀』で気合いの入る現代史部分

(写真は内閣官房領土・主権対策企画調整室のウェブサイトより
https://www.cas.go.jp/jp/ryodo/index.html)

 このブログでも何度か触れてきた百田尚樹氏の『日本国紀』の発行部数は既に60万部に迫ろうとしているようで、なかなかの勢いになっています。第12章以降の終戦後から現在に至る時期の描写に特に気合いが入っており、そのあたりは現代史というよりも作者の政治論を並べたような印象を受けます。
 とりわけ百田氏は、戦後の日本を「平和ボケ」と批判し、現在に至るまで近隣諸国との関係で様々な危機を抱えていることを強調していますが、このあたりは普段の言動からも想像がつくところでしょう。

3つの領土問題を抱えている日本

 さて日本と近隣諸国との問題といってもいろいろありますが、領土問題は、やはり安全保障や国家の存立に影響しかねないものであり、一般的に重要な問題であることには誰でも異論はないでしょう。
 戦後の日本が抱えている領土問題といえば、言うまでもなく、韓国との竹島問題、中国との尖閣諸島問題、そしてロシアとの北方領土問題です。政府も領土・主権問題対策企画調整室という部署を設置して、国民にもウェブサイトを通じて広報活動を行っていることも知られています。(リンク先:https://www.cas.go.jp/jp/ryodo/index.html)
 
この領土問題について、『日本国紀』はどのように書いているでしょうか。

『日本国紀』が語る竹島問題

まず竹島問題については、1952年に

(韓国が)日本固有の領土である竹島(島根県)を不法占拠した。これに対し、昭和28年(1953)には、島根県と海上保安庁が韓国人6人を退去させ、領土標識を建てた。しかし韓国の守備隊が上陸し竹島の占拠を開始して、竹島近海で操業している日本漁船に対し、銃撃や拿捕を繰り返すようになった。(P453~454)

とした上で、韓国側による漁船拿捕や船員抑留について説明した後

竹島は現在に至っても、韓国が実効支配する状況が続いている。(P454)

としています。

『日本国紀』が語る尖閣諸島問題

次に尖閣諸島問題は、

昭和44~45年(1969~1970)に国連が行った海洋調査で、尖閣諸島近辺の海底に石油資源があると発表されると、中国は突然、尖閣諸島の領有権を主張し始めた。…(P494)

としたうえで

中華人民共和国は、『尖閣諸島を取る』と宣言し、事実、実効支配に向けて軍艦や戦闘機による領海侵入、領空侵犯を繰り返している。(P500)

と述べて、そこから憲法改正や国防の強化の必要性を説くという流れになっています。

『日本国紀』が語る北方領土問題 … は … 無い?

それでは北方領土問題については『日本国紀』はどのように語っているのでしょうか。

・・・実は、まったく記述がありません。
なんと『日本国紀』には、北方領土問題に関する説明が一切存在しないのです。
そんな馬鹿なと思われるかも知れませんが、本当です。(念のためいうと、江戸時代末期に北方領土(四島)が日本に帰属したという記述はあるのですが、大戦末期以降の北方領土のソ連(ロシア)による支配の説明がありません。)

 そもそも北方領土は、1945年8月に対日宣戦布告したソ連が、満州、南樺太、千島列島に軍事侵攻してくる中で占領されたものでした。
 このソ連の侵攻する有様を『日本国紀』はどのように描いているか、確認してみましょう。

二発目の原爆が落とされた8月9日、ソ連が『日ソ中立条約』を破って参戦した。(P403)

 ただこれだけです。ソ連軍が満州に侵攻したことについてはまったく触れていませんし、千島四島に上陸して占領したことも一切説明がありません。このあとは

もはや日本が戦争を継続するのは不可能だった。5日後の8月14日、日本は『ポツダム宣言』を受諾すると連合国に通達した。ここに日本が3年9ヶ月戦った大東亜戦争の終わりが決定した。(P404 )

 というふうにあっさり流しています。
 そしてその後で

…南樺太、台湾、朝鮮半島の領土を失い、満州、中国、東南アジアにおける、公民含めたすべての資産・施設は没収された。(P409)

として、南樺太が領土でなくなったことについては書いてありますが、千島四島はどうなったのか、最後まで何の説明もありません。
(ついでにいえば、沖縄が戦後長く米軍に占領されたままであることについても、終戦後の部分ではまったく触れず、だいぶ後の1970年代くらいの話になってから、1972年に日本に返還された話が唐突に出てきます。その間沖縄がどういう状態におかれていたかについては何も書いていません。)

なぜ北方領土問題について触れないのか?

 これではまるで、北方領土問題が無かったことにされているかのようですが、書き忘れでもない限りは、『日本国紀』としては、北方領土問題など敢えて触れる必要はないと判断したということなのでしょう。

 竹島と尖閣諸島に触れておきながら、北方領土だけわざわざ無視した理由はわかりません。安倍政権は対ロシア外交に力を入れており、近々安倍総理がロシアを訪問予定です。百田尚樹氏の政治的なスタンスからいうと、むしろ北方領土を不法に占領されたことを強調して、返還要求ムードをもっと盛り上げて政府の背中を後押しするくらいの態度を取っても良さそうに思えるのですが…?


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弁護士。著書『13歳からの天皇制』http://www.kamogawa.co.jp/kensaku/syoseki/sa/1076.html 記事についてのご意見等はhorishinb@gmail.com かhttps://twitter.com/ShinHori1 まで
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