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「おっさん」叩きの記事が炎上するようになった理由は?

各種「おっさん」叩き記事でいう「おっさん」の意味

 先日の記事の考察の続きです。まず「おっさん」叩きの例として、いろいろ取沙汰された言説の2つの例を、もう一度示しておきます。



 前回考察したように、これらの記事や広告でいう「おっさん」とは、単なる「中高年男性」という意味ではなく、「企業組織で管理職など一定の地位・職能についている中高年男性」を意味することは言うまでもありません。

 そもそも「中高年男性=おっさんは、一定の地位についているのが当たり前だ」という概念がまず先にあって、そこから「いちいち補足説明しなくても、『おっさん』といえば、そういう地位にある男性のことだとわかるだろう」という暗黙の了解が成り立ってきたということが言えるでしょう。

結局「おっさん」は「組織の管理職」の代名詞

 「おっさんは、古い価値観に凝り固まり、階層序列の意識が強く、目上の者に媚び、目下の者を軽く見る」
 とか
 「おっさんは、能書きを並べて、言い訳ばかりする。試そうともしないで、すぐに『できない』という」
 という類の「おっさん」叩きの言説が意味を持つためには、まず、「おっさんは、企業などの組織で、管理職などの一定の地位にある」という前提が満たされていなければなりません。

 結局のところ「おっさん」≒「組織の管理職等の中高年男性」の代名詞として使われているということになります。

 そして、「おっさん」という言葉を使うかどうかは別として、「組織で長年勤めて一定の地位についている人間が、古い考え方にとらわれているのではないか」という類の議論は、別に最近始まったことではなく、人間社会で常に存在してきた現象ということができるでしょう。

「おっさん」というモデルの変質・崩壊

 このような「おっさんは古い考え方にとらわれている」等々という類の言説が、これまで取り立てて疑問視されなかったのは、まさに当の「おっさん」=企業で管理職などの地位にある中高年男性たちも、「あるある」「耳が痛いが、俺も気をつけなきゃ」という程度の反応で受け止めてきたからです。

 ところが近年、「おっさん差別」の事例として、上記の2つの例のような広告や文章のような言説が問題視されるようになったのは(特に「さよなら、おっさん」の広告は「炎上」したとされています)、社会で何らかの意識の変化が起こったからでしょう。それは何でしょうか。

  それは、やはり「中高年男性は、組織で一定の地位についているのが普通だ」とは言えなくなってきたということでしょう。若干言い方を変えて、「企業などの組織で一定の地位についていない中高年男性も最近は多い」という意識が強まってきたから、といっても良いと思われます。

 これは、いわゆる就職氷河期世代の問題が真っ先に思い浮かびますが、さらに、就職できている人の中でも、管理職などへの昇進が厳しくなり、また雇用そのものが不安定になってくるなどで、従来のように「普通に勤めていれば、中高年になる頃には、それなりの地位にはなれる」という観念が崩れてきたからということが言えるでしょう。

  (さらに、ここでは立ち入りませんが、「そもそも、組織で一定の地位についているのを中高年『男性』に限るような言説をすること自体がおかしい」という観点での批判もありうるでしょう。)

企業等での地位がなければ、警句には意味がない

 いずれにしても、「さよなら、おっさん」とか「おっさんは古い慣習にしがみつく」とか「おっさんは組織の活性化を邪魔する」とかいう類の言説は、企業の課長などの立場にいる人が見て、初めて警句として意味を持つわけです。

 そもそも正社員の地位につけていない人とか、失業中の人などにとっては意味をなさないものであり、また企業に勤めていても中高年でそれなりに昇進できているというものではないことを思えば、この種の記事や広告の「おっさん」という部分だけ見れば、無意味な侮辱、不快な表現として受け取られても確かに仕方ないものでしょう。

 「おっさんが差別されている」というより、「おっさん=組織でそれなりの地位」というモデルが崩壊したために、「おっさん」叩きの記事や広告が警句として受け取りにくくなり、単なる侮辱として感じる方が自然な意識が世に広まってきたということができるでしょう。

昔ながらの感覚で「おっさん」の語句を使い続ける人々の問題

 したがって問題は、「おっさん」が差別されているかどうかというよりも、「おっさん」の地位が昔とは相当変質して、役割モデルが崩壊してきたのに、記事や広告を作る側の人々の意識がまだ追い付いておらず、いまだに「おっさん」を中間管理職の代名詞のように使えば良いという程度に思っているという点にあるのだと考えられます。



 


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