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ココロザシナカバ~壮絶な自分史~ 第11話/60話:「卒業式」


【ここまでのあらすじ】
岩手→練馬→川口→浦和→茨城・・・と住まいを転々としてきた阿部家。
父の酒とギャンブル好きが原因で、貧乏で婦けんかが絶えない。
家計のために小学生からバイトで稼ぐ長女まゆみ(私)が
中学生になり、恋をし、交換日記を始めたが・・・。




しかし4日後の放課後、ついにあれが返って来てくれた。

忘れ物をしたので、放課後ずいぶん経ってから教室に戻った。
すると机の中に、あの地味な交換日記のノートが返ってきていたのだ。

いや、喜ぶのはまだ早い。
白紙かも知れない。

でもこのノートを岩ちゃんが数日所有してくれていただけでも嬉しすぎる。
ちょっと前まで岩ちゃんのカバンに入っていたであろうそのノートを、
一度大きく深呼吸してから開いた。

そこには岩ちゃんらしい大きな字で

---では俺から書く。交換日記をしようといわれて驚いた日だった。---
と書かれていた。

それだけ書かれていた。


その短い文章が私のためだけに書かれているかと思うと、文字一つ一つが愛おしくてたまらなかった。
見てはニヤニヤし、その文章を書いている岩ちゃんを想像しては、嬉しくて涙が出そうになった。
片思いではあるが、恋というのは本当にエキサイティングだ。

岩ちゃんの家の方向から風が吹いてくると、よもや彼の頬を撫でてきた風かもしれないと、目を閉じて深呼吸する有様だ。
ただ交換日記の1行が返ってきただけなのに、3年近く想い続けた岩ちゃんへの恋が実ったような、そんな錯覚さえ覚えた。

そんな交換日記は1冊の途中あたりで、岩ちゃんの番で終わった。

これは後から知ったことなのだが、岩ちゃんにも片思いしていた人がいて、
その人は隣のクラスのバレーボール部の子で、
岩ちゃんから告白して付き合うことになったらしい。

でも私はそんなことは知らず、日記が返ってくるのをただ待っていた。
待っているうちに卒業が迫ってきた。

高校の願書の受付がいよいよ締切間近となったとき、
私は岩ちゃんの友達から素晴らしいニュースを聞いた。

彼が男子校の工業高校を諦めて、共学の高校に進路を変えたというのだ。
私はすかさず担任の所に飛んでいって、願書を書き換えた。
岩ちゃんと同じ高校に変更したのだ。

その学校は偏差値としては普通の中の普通といったレベルで、
私としては問題なかった。
親には進路を変えたことを締切後に報告してボロクソ叱られたが、
もう後のお祭りである。
すべからく確信犯だ。

でもこの進路変更が、自分の人生を大きく変えることになるとは思いもしなかった。

無事に受験も終わり、私たちは卒業式を迎えることになった。

当時は卒業式と言えば、先生たちをボコボコにするというのが慣例だった。先輩の代も、その上の先輩の代も、学年主任と教頭は卒業式が終わると、
校内を追い掛け回されてボコボコに殴られていた。

3つ上の先輩の時は気合が入っていて、当時のニュースに取り上げられて新聞にも載って、地元では英雄だった。
なので、当然今年も狙われている先生は気が気じゃない。
卒業式は出席しなきゃならないし、でもそのあとは雲隠れしなきゃならないし大忙しだ。

私も仲間も先生には竹刀でよく殴られたし、男子は頭を五厘刈りにされたりもしたし、結構な恨みを買っていたのは確かだった。
ところがその年の卒業式は用意周到で、式の途中にはもう、ターゲットの先生方は姿をくらましていた。

おかげで粛々と式は終わり、どうせ明日また会うというのに、卒業を惜しんで号泣するクラスメイトで溢れていた。

ああ、しらける。

そう、私はこんな時も一滴の涙も出てこない。


そしていよいよ卒業式の次の日・・・、



明日は公立高校の合格発表だ。



つづく

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