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新国立で感じた非日常との境界線と、なでしこジャパンを初観戦して考えた「日本代表」の意味

この記事は「旅とサッカー」をコンセプトとしたウェブ雑誌OWL magazineのコンテンツです。OWL magazineでは、中村慎太郎さん、宇都宮徹壱さんはじめ、個性豊かな執筆陣によるサッカー記事、旅記事を更新しています。Jリーグはもちろんのこと、JFLや地域リーグ、海外のマイナーリーグまで幅広く扱っています。

2021年4月11日、国立競技場で行われた、なでしこジャパンのパナマ戦を観てきた。

きっかけは、OWL magazineメンバーのすずさんのツイート。

これを見るまで、試合の存在自体に気づいていなかった。

しかし、この前日にトレーニングキャンプのメンバー発表があり、浦和レッズレディースから7名が選ばれていた。それは覚えていた。

浦和レッズの選手達が日の丸を背負ってプレーするところを見られる。

代表戦のチケットを買う理由として、十分だろう。

果たして、浦和レッズから6人が選ばれた。招集されたメンバーは25人と、トレーニングキャンプの時から1人多いが、海外組が6人招集されたあおりを受け、猶本光が外れた。塩越柚歩と水谷有希は初招集である。

4月8日のパラグアイ戦は、GK池田咲紀子、DF南萌華、FW菅澤優衣香が先発した。

中3日での試合が続く東京オリンピックのシミュレーションとはいえ、メンバー選考もある。11日は、パラグアイ戦で出場機会がなかった選手達にもチャンスが与えられるのではないか。

もしかしたら、塩越や水谷のなでしこジャパンでのデビュー戦になるかもしれない!

久しぶりの国立、初めての新国立

今回の会場は国立競技場だ。いわゆる「新国立」になってから、代表戦を行うのは、男女の全カテゴリーを通じて初めてのことである。

サッカーの試合としては、2020年1月1日の天皇杯決勝をこけら落としに、ルヴァンカップの決勝なども行われている。しかし、浦和レッズは、どれも決勝にたどり着けなかった。

「新国立」に行く。

チケットを買った、もうひとつの理由である。

それにしても、国立は久しぶりだ。

いつ以来だろう?

浦和レッズは、2014年に改修前のラストマッチをやったり、前年のナビスコカップの決勝を戦ったりしたが、ちょうど海外赴任中でいなかった。

そうすると、2005年か2006年の天皇杯決勝か?

そんなに前になるのか?

でも、2011年のナビスコカップの決勝は行けなかったし、代表戦も全然行っていない。

たまにやっていたリーグ戦も、映像で見ることの方が多かった気がする。
(注:浦和レッズは、関東近郊のアウェイゲーム(特に柏レイソルとヴァンフォーレ甲府)が国立になることはよくあった)

いずれにせよ、はっきり思い出せないくらい、久しぶりということだ。

JR千駄ヶ谷駅に下りても、懐かしさよりも新鮮さの方が上回る。

改札を出たあたりから「あー、こんな感じだったかも」と思い始めるが、奥底から記憶を掘り起こすにはスタジアムが近すぎた。

歩き出してすぐ、「新国立」の外観が見えてくると、懐古が引っ込み、好奇が前に出る。

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「おお、きれいだな!」

心の準備が間に合わず、平凡な感想しか出てこない。

「ぱっと見、スタジアムっぽくないかもな」

少し間を置いてから、ふとそんなことを思った。

スタジアム特有の「異物感」が薄い気がした。

すぐ手前には大江戸線の駅もあり、ちょっと(かなり?)大きなショッピングモールのような感じかもしれない。

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ぐるっと回って外苑側に行くと、ようやく「スタジアム」感が出てきた。

「そうそう、これこれ!」

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千駄ヶ谷側の光景は、街に馴染んでいるということかもしれないけれど、サッカーに毒されている人間としては物足りなさがあった。

また駅からのアクセスも良すぎた。スタジアムまで多少距離がある方が、気持ちを徐々に上げながら行けるので好きだったりする。

その意味でも、新国立には外苑側からアプローチした方が良いかもしれない。次回は、外苑前か青山一丁目から、明治神宮を抜けながら行くことにしよう。

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ちなみに、スタジアムの正式名称は「国立競技場(National Stadium)」だ。「新(new)」という言葉はついていない。ただ、僕はまだ「新国立」の方がしっくりくる。「新」がとれるのはいつになるだろうか。

日常との境界線と、その向こう側

いよいよスタジアムの中に入る。チケット確認のゲートは、スタジアムに直結している。

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ゲートを通ると、コンコースの奥にピッチが見えた!

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埼玉スタジアム2002や浦和駒場スタジアムでは、コンコースからだとピッチは見えない。そのため、コンコースからスタンドに出て、視界が開けたときに、一気に気持ちが昂ぶる。

一方で、新国立では、コンコースから非日常が始まっている。ゲートを通ったところから芝の緑が目につき、足取りが軽くなり、徐々に気持ちが上がってくる。

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コンコースもゆったりしており、非日常の空間的な範囲は広い。

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今回の席は、バックスタンド中央の前から13列目だった。サッカー専用スタジアムではないので角度はやや気になるものの、陸上トラックの部分も緑で目隠しされていたので、想像していたよりも悪くはなかった。

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折角なので一周してみると、ベンチが、かなりメインスタンド寄りに設置されていることに気づいた。あれだけ距離があると、ベンチの選手達はピッチで何が起きているのか把握しづらい気がする。

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そうこうしているうちに、ウォーミングアップが終わり、メンバー発表の時間になった。浦和レッズの選手達は、高橋はなが左CB、菅澤が2トップの一角で先発し、残る4人はベンチスタートだった。

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メンバー発表で面白かったのは、選手の名前に加えて、所属チームも紹介されたことだ。この日だけでも「三菱重工」は6回呼ばれた。

その点で存在感があったのは「ACミラン(イタリア)」。海外組が少数派だった時代の中田英寿のようで、心なしか、まわりもざわついた気がする。

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リーグ戦にはないけれども、代表戦にあるのが国家斉唱である。こういう時でもないと「君が代」を歌う機会はないが、コロナ禍のため、「ご起立の上、心の中で歌うようにお願いします」とアナウンスがあった。

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親善試合なので、試合自体はリラックスして見たが、気になったのが背番号だ。既に指摘されている通り、現在の日本代表のユニフォームは、背番号が見にくい。

今季からJリーグが背番号を統一して視認性が良くなっていることとの比較としても、スタンドからの観にくさが指摘されていた新国立との対比としても、これが一番気になったかもしれない。

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代表監督は「選ぶ人」

結果は7-0の完勝だった。特筆すべきは菅澤がハットトリックを決めたことだ。明らかに力の差があったことは割り引かなければならないが、メンバー選考という観点では、結果を出したことは重要だ。

一方で、事前に期待していた塩越と水谷の代表デビューはかなわなかった。シーズン中ではないので、「呼んでおいて使わないとは何事だ!」とまでは思わなかったけれど、やはり残念だった。

ここからは、東京オリンピックの本大会が近づく中での国際親善試合という性格に照らして、現在のなでしこジャパンの中の序列、特に浦和レッズレディースの選手達の立ち位置を分析つつ、「日本代表」の意味を考察してみたい。

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