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条例定数3,467人に対して職員数が3,552人だった話【わかりにくい杉並区職員定数の定め方をシンプルにしよう】

区長交代後、杉並区「職員定数管理方針」が改定されました。区長部局全般で職員数とともに条例定数を増とする方針が明確になっています。

これを受けて、この春、杉並区職員定数条例が改正され、杉並区職員(常勤職員)の「条例定数」は、3,467人から3,616人へと改められました。

「条例定数」については、山田区長(約11年)、田中区長(12年)と一貫して減少させていた中、ここにきて増に転じたことになります。

これについては、新たに区立児童相談所を設置する(令和8年11月予定)など必要な職員を確保するための改正であると説明されています。

◎令和6年4月から/改正後の条例定数(上限数)

◎令和4年4月から令和6年3月まで/改正前の条例定数(上限数)


ここで注意しなければならないのは、条例定数(条例に定められている職員数)と正規職員の実人数(実際の職員数)は全く異なる概念である、ということです。

今回の条例改正についても、杉並区は「職員の数を3,700人するための改正である」と述べています。

条例定数を3,616人(上限)に改正する中で、職員の数を3,700人にするというのは非常にややこしい話です。解説しましょう。

■条例定数(上限)を超える職員数が生じていた理由


例えば、年度決算ごとに公表されている『杉並区職員白書2023』は、昨年4月1日現在の職員数(実人数)を3,552人と公表しています。

その一方で、改正前の職員定数条例における条例定数は3,467人が上限となっています(再掲)。

一見すると、条例定数(3,467人)より実際の職員数が100人近く多く(3,552人)、不自然にみえます。

わかりにくいですよね。

端的に言えば、これは条例上の職員定数を「実際の職員数より少なく見せるためのテクニック」として利用されてきた側面もあるのです。

■「職員の数」をめぐる二重の基準


地方自治法172条3項は、臨時または非常勤の職を除く職員定数を「条例」で定めると規定しています。

(職員)
第172条 前十一条に定める者を除くほか、普通地方公共団体に職員を置く。
② 前項の職員は、普通地方公共団体の長がこれを任免する。
③ 第一項の職員の定数は、条例でこれを定める。ただし、臨時又は非常勤の職については、この限りでない。
④ 第一項の職員に関する任用、人事評価、給与、勤務時間その他の勤務条件、分限及び懲戒、服務、退職管理、研修、福祉及び利益の保護その他身分取扱いに関しては、この法律に定めるものを除くほか、地方公務員法の定めるところによる。

地方自治法 第7章執行機関 第2節普通地方公共団体の長 第2款補助機関



常勤職員(臨時又は非常勤ではない職員)は、強固な身分保障を受けるとともに、その給与費も弾力性の乏しい経費となります。そこで、地方自治法は、財政民主主義の観点を踏まえて、職員定数を条例で定めるよう義務化しています。

同法172条3項は「臨時又は非常勤の職については、この限りではない」と規定しています。

では、誰を条例定数に含めるのか、ここで「常勤の職にある職員の数」について解釈差が出てくるわけです。

具体的には、①「常時勤務している職員の数」と解釈するか、②「在籍している常勤職員の実人数」と解釈するかで数値が変わってきます。

「常勤の職員は何人いるのか?」というシンプルな問いに対して、複数の回答が成り立つようになっているのです。

あるときは少なめに説明できる(条例定数を説明する)、またあるときは多めに説明できる(実人数を説明する)といった具合で「二重の基準」が用意されているのです。

■育休などの代替職員として非常勤の職員を充てると、表面的に「条例定数」を削減させることができた


杉並区の職員定数条例に規定されている定数は「常時勤務している職員の数」です。「常勤職員の実人数」とはなっていません。

しかし、実際には、条例定数に含まれていないものの、常勤職員としての身分を保持している方が多数存在しています。

例えば、育休中の職員、病気休職中の職員、他団体に派遣されている職員などは、区が実質的に給与等を負担している場合であったとしても、職員の数(条例定数)に含まれていません。

また、これらの方が復職した場合も1年間は定数から除外しておくことができる規定ともなっています。

現在の「条例定数」は、必ずしも実態を正確に表してはいないのです。

これまでは「常時勤務している職員ではない」として、何かと職員を「定数外」扱いにしていたわけですが、それは働き方やライフスタイルが画一的であった時代の反映であり、もはや時代に合わない定数管理になっているというべきでしょう。昨今は労働力人口の減少とも相まって雇用の流動化や定年延長なども進んでいます。

働き方やライフスタイルの多様化が加速しているのみならず、育児休業や介護休業などを取得する可能性のある人が少なくない時代へと変化している中、果たして今のままの定数管理で良いのか、再考が必要です。

■働き方やライフスタイルが多様化する中、果たして今のままの定数管理で良いのか


過去の選挙や政治宣伝において「職員◯◯◯人削減」と言っている人がいましたが、これも必ずしも実人数を語っていたわけではないのです。

例えば、育休や病休の代替職員として非常勤の職員を充てたり(あるいは職員を補充しなかったり)、区職員を外郭団体などに派遣したりすれば、定数を少なく見せることができました。

区職員の身分を有していても「常時勤務している職員には含まれない」との理屈を使って定数外とし、条例定数をより少なく見せてきたのです。「条例定数」を少なく見せるテクニックです。

しかし、病気休業中であったとしても、区の職員である事実に変わりなく一定の給与や福利厚生を受けている場合もありますし、退職手当引当金の算定(発生主義に基づく新地方公会計)上も除外できない存在となります。

常勤採用された以上、退職・免職の日まで定数に含めるなど、より透明度の高い定数管理を行い、区民に対して説明責任を誠実に果たす必要があります。

■これからは透明度の高い定数管理を


労働力人口の減少が続く中、職員採用倍率が軒並み低下しています。


各自治体が終身雇用で常勤職員を採用したくとも、もはや安定的に採用することができない時代となりました。

従来の延長で対応を図ることは難しく、これは定数管理にも波及することになります。より誠実で透明度の高い定数管理に移行することが必要です。

区長が今後も職員を増員したいというのであれば、地方自治法法172条3項の立法趣旨を踏まえて条例定数の定義を適正化し、よりわかりやすく「常勤採用されている職員の実人数」について上限を定める形へと全面改善を図ることが必要というべきです。既に検討を進めている自治体も出ています。

一言でいえば、「わかりにくい条例定数の定め方をシンプルに」ということですね。

ご意見は堀部やすしLINE公式アカウントへ


社会が大きく変化する中、条例定数を実際の職員数より少なく見せるテクニックはもう不要でしょう。そのうえで「必要な職員」の将来像を明確にしていくことが必要です。

誠実に説明責任を果たす杉並区政でありたいものですね。

今回も最後までお読みくださり、ありがとうざいました。引き続き課題に取り組むことができるのは、みなさんの応援のおかげです。

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