見出し画像

荻外荘公園の指定管理者は「とらや」グループの虎玄に【杉並区長交代後 初の民営化事例】

荻窪三庭園(まもなく復原開園される荻外荘公園ほか2公園)の指定管理者として、株式会社虎玄が提案されています。

和菓子屋「とらや」のグループ企業ですね。

株式会社虎玄は、飲食店の営業、不動産賃貸業のほか、東山旧岸邸(所有者は御殿場市)の指定管理者になっており、特にこれが「実績」となって評価を受けたものです。

民営化・指定管理者制度に懐疑的だった岸本聡子杉並区長が新たな区施設に対して制度導入に踏み切るのは、これが初になります。



荻外荘の復原・開園にあわせてグリーンスローモビリティも導入へ


荻窪三庭園(①荻外荘公園/②大田黒公園/③角川庭園)は、2月21日にオンエアされたテレビ東京「出没!アド街ック天国」荻窪編において第13位にランクインしました。

「荻窪三庭園」との名称で紹介されたのは、杉並区が観光振興の一環で、この名称による対外宣伝をしていることの反映でしょう。

杉並区が新たに導入しようとしているグリーンスローモビリティ(時速20km未満で走行する電気自動車を活用した移動サービス)の予定運行ルートも、この荻窪三庭園などを回遊するルートが選定されました。

執行機関杉並区長は、このグリーンスローモビリティについて、2024年度(令和6年度)上半期に本格的な実証運行を行った後、荻外荘の復原開園直前にあたる11月から本格運行させたいとの見通しを示しています。

なお、このグリーンスローモビリティの運行事業者は、三庭園の指定管理者とは別の事業者(別の契約)になります。これはこれで重い課題があるのですが、本稿とは別の論点になりますので、ここでは割愛します。


「荻窪三庭園」一括で指定管理者制度(民営化手法)を導入し、活性化をめざす


この荻窪三庭園は、新年度から三庭園一括で、民営化手法の一形態である指定管理者制度を導入する予定になっています。

現在、大田黒公園にはこの制度が導入されていますが、比較的規模の小さな角川庭園での制度導入は初となります。荻外荘の復原に伴う荻外荘公園の本格開園も12月の予定ですので、こちらへの導入も初となります。

指定管理者制度が導入されると、区との協定に基づき施設の管理運営を担う指定管理者に対して一定の指定管理料(公金)が支払われる一方、当該施設の利用料金収入や事業収入は指定管理者自らの収入となります

このため、施設に利用料金などを支払った場合の領収証の発行者も指定管理者になります。

図書館のように利用料金を設定できない施設ではそう効果を出せるものではありませんが(図書館の無料は法定されています)、自主事業を含め相応の収入を確保することができる施設の場合は、指定管理者の創意工夫によって効率的な運営が実現する場合があります。

岸本区長が三庭園一括で指定管理者制度を導入する(同じ指定管理者に経営させる)ことにした意図も、ここにあるとみるべきでしょう。

株式会社虎玄が指定管理者となっている東山旧岸邸・とらや工房では、お菓子づくりのワークショップなど「とらや」らしい事業が展開されています。

荻窪三庭園においても、今後は、とらやグループや東山旧岸邸で培われたノウハウを生かした効率的な施設運営が行われていくことでしょう。

なお、荻外荘公園は2024年12月に復原・開園の予定ですが、このうち展示休憩施設棟は入札不調で着工が遅れており、全体としては先行き不透明になっています(再入札の結果次第ですが、展示休憩施設棟の開設は2025年7月の見通しが示されています)。

荻外荘(遊び場108番時代に撮影)


選定過程を確認すると…


荻窪三庭園(荻外荘公園外2公園)の指定管理者候補者を選ぶにあたっては、選定委員5名による選定委員会が設置され、選考が行われています。

選定委員会の委員5名の構成は、学識経験者2名、区民である文筆家1名、区職員2名となっています。

  • 後藤委員は、荻外荘公園整備基本計画の策定など、荻外荘復原整備事業の初期段階から関わる指導者的立場の学識経験者で、この分野の大家です(元文化庁職員)。杉並区文化財保護審議会の委員でもあります(区政協力者)。幼少期は阿佐ヶ谷住宅にお住まいだったとも聞いています。

  • 三重野委員は、国交省の職員として、グリーンスローモビリティの名付け親になったことで有名な方です。荻外荘公園の復原開園にあたって新たに導入されるグリーンスローモビリティの運行事業者を選ぶ選定委員会にも関与しました。

  • 甲斐委員は、文筆家・エッセイストとして多数の著書や雑誌への寄稿などがある杉並区民の方です。私の自宅からも何冊か本が出てきました。

  • 杉並区職員2人のうち環境部長が選定委員に入っているのは、おそらく男女比が考慮されたものでしょう。環境部長は、過去の区立公園の指定管理者選考においては選定委員に入っていません。専門外・所管外である現在の環境部長が選定委員になるのは相当に不自然ですが、ジェンダー平等を標榜する区長の意向が働いたものと考えられます。なお、現在の環境部長は、区長交代の直後期に部長ポストを得ています。

なるほど、いずれの選定委員も、それぞれの分野で実績を持つ素晴らしい方々です。

遊び場108番時代の荻外荘公園


どう評価する?選定委員の利害関係性


杉並区は、なぜ、この方々を選定委員に指名したのでしょうか。

例えば、甲斐委員について、具体的に確認してみましょう。

https://twitter.com/minori_loule/status/243929045987909632
https://twitter.com/minori_loule/status/159087726375870464


甲斐委員は、2012年に『静岡百景』を出版しており(サンクチュアリ出版)、東山旧岸邸・とらや工房も、この静岡百景の中に含まれています。

当時のTwitter(現X)を確認すると(前掲)、東山旧岸邸・とらや工房について「静岡百景の中でも指折り好きな場所」(2012年9月7日)、「案内したい方がたくさんいる大好きな静岡のひとつ」(2012年1月17日)と述べていた事実を確認することができます。

なぜ、杉並区は、この方を選定委員にしたのでしょうね。

審査過程において、東山旧岸邸・とらや工房の運営を実績に掲げる虎玄が高く評価される(低く評価されない)蓋然性が高いことは、最初から容易に予想できたはずです。

『静岡百景』(堀部やすし所有)

さて、東山旧岸邸・とらや工房は、甲斐氏の父親にも縁がある場所のようで、父親が選者をつとめた俳句の展示もここで行われていたそうです。

https://twitter.com/minori_loule/status/414178742668238848


どの程度のご関係かはわかりかねますが、親子でお世話になるとともに、とらや工房のライブラリーに親子で本を並べてもらえる程度には、好意的なご関係であったのでしょう。

そこで、さらに調べてみると、甲斐氏がとらやの和菓子を紹介する記事を数々書いているのみならず、とらやグループから反復して仕事を受けていた事実もわかりました。


■2012年

https://twitter.com/minori_loule/status/249019300613091328
https://twitter.com/minori_loule/status/264215461816832000


2012年10月~12月、とらや東京ミッドタウン店ギャラリーで企画展「こけしと出会う」が開催されています。

甲斐氏は、ここで開催された2か月を超える企画展において、自著エッセイ「こけしとおかし」を寄せ、限定販売されたミニこけし入り「からからせんべい」の監修者になっていたというのです。

とらや東京ミッドタウン店


とらや東京ミッドタウン店は、大きな暖簾がひときわ目立つ大店舗で、本格的なカフェ(虎屋菓寮)とギャラリーが併設されています。

休日ともなると長い行列ができていることも珍しくありません。

階上のサントリー美術館よりも目立つ場所にありますので、みなさんの中にもお立ち寄りになった経験をお持ちの方は少なくないことでしょう。

https://twitter.com/minori_loule/status/264503321484734465


企画展の開催期間中には、カフェ(虎屋菓寮)で、甲斐氏を招いてのトークイベントも開催されたようです。

参加費は4,200円と書いてあります。さすが六本木の一等地での開催となると、2012年においても相応のお値が張りますね。

このような一等地で企画展が開催され、自らプロデュースしたタイアップ商品まで販売することができたのは、文筆家冥利に尽きることでしょう。

https://assets.toraya-group.co.jp/__/_files/toraya/pdf/press_release/20120901_40.pdf

■2015年

2015年2月~3月にも甲斐氏をコーティネーターとする「東山旧岸邸・富士山とくらし展」が開催されていました。

https://twitter.com/minori_loule/status/568379465706786816


甲斐氏は、ここでも「東山旧岸邸と、とらや工房は、静岡の中で大切な方を必ず案内する指折り好きな場所(2015年2月19日)」と述べて紹介しています。今回も展示とともにトークイベントが開催されています。

https://www.loule.net/coto_spring/new_event.html


このほか、2014年2月23日にも「とらや御殿場店」で甲斐氏のトークショーなどが行われていたことも下記で確認することができます。

https://twitter.com/minori_loule/status/438237335713378304
https://twitter.com/takako_nakamura/status/438015636459905024
https://www.instagram.com/p/kv3EFVmJnb/
https://www.instagram.com/p/kx-4YSGJsO/


■2023年

直近では、2023年6月、東山旧岸邸で「甲斐みのりさんと過ごす和菓子の日・和菓子のたのしみ」と題した和菓子づくりのイベントが開催されています。

https://twitter.com/minori_loule/status/1652947632288059392


これは直近であることから、さまざまな媒体で情報を確認することができます。

とらや工房の和菓子職人と甲斐氏が主催者側となって仲良く開催されている様子もよくわかりますよ。

このほか、インターネットで検索すると、甲斐氏がとらやの商品などを紹介する記事なども数々出てきますので、確認してみるとよいでしょう。


都市環境委員会の審議は不自然な幕引きに


杉並区議会・都市環境委員会2月22日の審議では、両者の利害関係性などが問題となりました。

確かに、文筆家として素晴らしい方ですが、なぜ、わざわざこの方を選定委員に選ぶ必要があったのか(中立性の高い他の人を選ぶこともできたのではないか)疑問が尽きず、過半数の議員から厳しい指摘が相次いだのです。

午前中の審議では否決もあり得る展開で、緊張感が走りました。

しかし、お昼休みを終え、審議が再開されると様相が変わったのです。

お昼に休憩を1時間しっかりと取ったにもかかわらず、なぜか審議開始30分でイレギュラーな暫時休憩の動議が成立し(その休憩は1時間以上もの長さに及び)、雰囲気が一変してしまったのです。

休憩中に何があったのかは知りませんが、その後、会議を再開すると、午前中に激しく批判していた委員が次々に賛成意見を述べていきました。。

おそらく水面下で何か「調整」があったのでしょう。

結果として、都市環境委員会における反対者は2人(都民ファーストの会と都革新)のみにとどまりました。

あまりにも急な変化には驚かされましたが、少なくない委員が何らかの影響又は党議拘束(会派拘束)を受けたのではないでしょうか。


荻窪三庭園のうちの2園(大田黒公園・角川庭園)については、4月1日に新たな指定管理期間をスタートさせる予定で執行機関が話を進めていました。

しかし、通常の委託契約とは異なり、民営化・指定管理者の指定については、最終的な決定権が議会にあります(地方自治法)。

仮に否決となれば、それこそ最初から手続きをやり直さなければなりません。年度末を控え、職員の顔が真っ青になっていたはずです。このあたりを都市環境委員会の委員(議員)も「忖度」したのでしょう。

イレギュラーな休憩の直前、それまで全く答弁に立っていなかった岸本区長から「新しい指定管理者の道を探り出発していきたいというのが私たちの本当に切なる思い」と説得する天の声があったことも印象に残りました。

荻外荘は12月復原・開園へ


とらや(虎屋)は、室町時代から続く和菓子の老舗です。

東山旧岸邸・とらや工房を中心とする「御殿場東山ミュージアムパーク構想」も、荻窪三庭園を中心とする荻窪のまちづくり方針・構想に通ずるものがあります。

したがって、仮に選定委員会が他の委員で構成されていたとしても、株式会社虎玄が指定管理者候補者に選出されていた可能性は高いでしょう。

それだけに、審査の公正性・公平性・中立性について疑問を差し挟まれる蓋然性の高い方については、選定委員から積極的に外す必要があったというべきなのです。

自治体から仕事を受ける業者選定において最も重要な要素である公正性・公平性・中立性に疑いを持たれかねない人選は、今後厳に慎まなければなりません。このように誤解を招く人選を放置していれば、今後公募に応じる新規事業者はいなくなってしまいます。

審査結果は、上のとおりです(都市環境委員会2月22日資料)。

これもまた個々にさまざま行間を読むことができそうですね。

落選した荻窪三庭園パートナーズは、前区長時代に大田黒公園・角川庭園の管理運営に関わっていた事業者などで構成する共同事業体です。

同じく落選した荻窪三庭園KB運営共同体は、新規参入になります。

この三庭園の指定管理業務については、2029年3月まで計6億円超の債務負担行為を設定する補正予算も提出されており(荻外荘公園4年4か月分、大田黒公園・角川庭園は5年分の指定管理料支払いに係るもの)、これも示された数値上少なくない疑問があったことから、私が所属する総務財政委員会においても、これとは別の疑問点を質しています。

選定された指定管理者は立派な事業者で評価していますが、その一方で、あまりに露骨な人選(区の選定委員会)、審査過程の不自然さ、予算措置上の疑問など、新区政でこのような出来事が発生するとは予想外でした。

繰り返しになりますが、このように誤解を招くような審査過程を放置していたのでは、今後公募に応じる新規事業者がいなくなってしまう可能性があります。再考が必要です。


荻窪三庭園のうち荻外荘公園については、荻外荘を復原したうえで2024年12月に本格開園の予定(展示休憩施設棟は2025年7月に開設の見通し)です。

指定期間は2029年3月末まで。同じ指定管理者が管理運営を担います。

堀部やすしは、初当選から独立した無所属で当選しており、区長推薦なども受けていませんので、これからも「天の声」に左右されることなく、そして忖度なく対応していきます。情報をお寄せください

ご意見はLINE公式アカウントへ

この記事が参加している募集

仕事について話そう

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?