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【放置されている入札契約制度改革】杉並区のプロポーザル・業者選定は公正か

プロポーザル方式(事業提案・企画競争)による事業者選定について、このところ杉並区で不自然なものが目立っています。

区長交代後も全く制度運用が変わっていないのが、杉並区の入札契約制度・業者指定の手続です。現状の一端を紹介しましょう。


1.労働法令違反で行政処分を受けた直後に委託事業者に選定されていた事例(新たな公共交通・グリーンスローモビリティ運行事業者の選定)


杉並区は、荻外荘の復原/荻外荘公園の開園に先立ち、新たな公共交通:グリーンスローモビリティを荻窪駅南側地域に導入する計画を策定しました。

グリーンスローモビリティ(略称:グリスロ)とは、時速20km未満で走行する電気自動車を活用した移動サービスです。

区は、令和6年度上半期に本格的な実証運行を行った後、荻外荘の復原・開園を目前に控えた11月から本格運行を実現したいと説明しています。

杉並区グリーンスローモビリティ本格運行の概要


このグリーンスローモビリティの運行事業者は、プロポーザル方式で選定されました。

しかし、選ばれた事業者は、プロポーザルが実施されている最中に労働関係法令違反で行政処分を受けていた事業者だったのです。

中央労働委員会の命令・裁判例データベースで確認すると(キャピタルモータース不当労働行為審査事件)、当該企業は複数のテーマで正当な理由なく団体交渉を拒否していた事実(不当労働行為)が認定されていました。

しかも、この東京都労働委員会の命令年月日(法令違反に伴う行政処分)は5月23日、命令書の交付日は6月30日となっていたのです。

杉並区のプロポーザル選定委員会の2次審査は、その後の7月3日に実施されていました。

この行政処分について区は知らなかった(事業者からの告知もなかった)と述べ、そのまま契約は8月31日に締結されていました。

区は本当にこの事実を知らなかったのでしょうか。

プロポーザル選定委員会は「非公開」、選定委員名は「事後公表」、詳細な会議録などは「非公表」です。

このため、事業者選考の途中(審査過程)に外部監視の目は全く入らず、その結果として労働法令違反による行政処分について本当に区が何も知らなかった可能性はゼロではありませんが、仮にそうだとしても、それは考慮不尽(本来考慮すべき内容を考慮していなかった)というべきものです。


その後、杉並区は、このグリーンスローモビリティの乗車料金(運賃)を100円とすることを決定しました。

他の交通不便地域を差し置いて、なぜ、この地域を優遇するのか、これについても問題になっています。

この地域は交通不便地域ではありません。実際にこのグリーンスローモビリティの運行ルートは、既存のバス路線と並行する部分があります。

4月1日から競合バス路線の普通運賃が230円となる中、民業圧迫も必至で、なぜ、この事業者だけを(このルートだけを)優遇するのか、競合バス・タクシーなど他の公共交通にも影響を与える可能性が指摘されています。

小さな車両を使用する区のグリーンスローモビリティは、その車両購入分を含め、区が毎年数千万円の赤字補填をしながら運行を維持していくことになるものです。

他に交通不便地域もある中、なぜこの地域にグリーンスローモビリティを導入する必要があるのか、ルート選定その他事業計画に対する数々の疑問とともに、わだかまりが残りました。


2.制度趣旨を骨抜きにして区職員過半数の状態で選考を行った事例(杉並区公式ホームページリニューアル受託事業者選定)


杉並区公式ホームページリニューアル及び運用業務の受託者選考も不自然なものでした。

プロポーザルは、単なる価格競争ではないため、選定委員の構成(人選)が結果を左右する選考方法です。人選が偏ってしまえば、偏った結果が出てくる可能性があります。

このため、先進自治体においては、誤解を招くことのないよう選定委員の過半数又は全員を外部委員とするなど配慮しています。

杉並区にも「半数以上は、区に勤務する職員以外の者でなければならない」との規定があります(杉並区プロポーザル選定委員会条例4条2項)。

その趣旨は、公正性・中立性・透明性への配慮であり、事業者選考・選定過程に疑念を抱かれることのないようにするためです。

ところが、杉並区公式ホームページリニューアルの受託事業者を選定するプロポーザルにおいては、内部委員が過半数の状態で(外部委員1名を欠いたまま)2次審査が行われていました。

杉並区公式ホームページリニューアル及び運用業務・プロポーザル結果

この選定結果を確認すると、各選定委員が加点方式で付けた点数の合計は、A事業者1,370点、C事業者1,326点と僅差であったことがわかります。

1次審査の段階においてもA事業者994点、C事業者962点と僅差でした。

どちらの事業者が選定されても不思議ではない「接戦」であったことがわかります。

両者の評価が逆転している項目も少なくなく、例えば、実際に操作したシステムデモに対する評価ではC事業者のほうが上回っていました。


選定委員会は6人で構成されていました。

このうち区職員が3名、長きにわたって区から反復継続的に仕事を受けている委託事業者1名、学識経験者2名です。

問題は、1次審査で僅差の接戦となっていたにもかかわらず、外部委員1名を欠いたまま(内部委員が過半数を占める中で)2次審査で行われた点です。

これでは公正性・中立性が担保できていたとは言えません。

区の主張は、選定委員会の定足数は満たしていた(委員の半数以上が出席していた)ので何の問題もないというものでした。

しかし、内部委員を過半数とする「出来レース」的な選考でよい(定足数を満たせば何をしてもよい)との考え方に立ってしまえば、簡単に制度趣旨を骨抜きにすることができてしまいます。

重要なことは、選定委員会の審査が「加点方式」である点です。

選定委員が各審査項目ごとに個々に付けた点数の積み重ねによって最終結果が出されるわけです。

選定委員に単にイエスかノーかのみを諮る多数決であれば、仮に1名欠席のままで採決となっても、6人中4人以上の賛成で結果を正当化できるかもしれません。

しかし、審査項目ごとに付けた点数の積み重ねによって最終結果が決まる加点方式においては、一人ひとりの点数の付け方次第で最終結果は大きく変わるのです。

僅差の接戦であれば、なおさらです。

選定委員会は非公開、選定委員も事後公表、詳細な会議録なども非公表となっている中、1次審査が僅差の接戦となっていた事実を考え合わせると、今回の対応が最終結果に影響を与えた可能性は否定できないのです。


3.区民が直接影響を受ける事務事業でありながら「職員のみ」で選考作業が行われた事例(窓口業務、学校移動教室運営業務ほか多数)


地方自治体は公金(税金)で運営されていることから、その事務事業の遂行にあたっても、刑法、地方自治法、地方公務員法、官製談合防止法その他の法律の規定にしたがって厳しい規律が課せられています。

このため、プロポーザルの実施においても、事業者選考・選定過程に疑念を抱かれることのないように、先進自治体は選定委員の過半数又は全員を利害関係を持たない外部委員とするなど工夫しています。

杉並区においても「委員の半数以上は、区に勤務する職員以外の者でなければならない」と条例で規定していることは前述したとおりです。

ところが、杉並区では区民サービスに直接影響が出ない事務事業だとして、内部委員(職員)のみで選考を行っている事例が多数出ています。

例えば、近年のプロポーザル事例では、①空家等利活用の相談窓口業務、②フレンドシップスクールの運営業務、③学校用務・学校施設管理業務、④小学6年生移動教室の運営業務、⑤区制施行90周年記念「東京ごみ戦争」ドキュメンタリー動画等の制作業務、⑥杉並区魅力発信事業(西武新宿線及び京王井の頭線沿線の観光資源を活用した体験イベント・SNSによる情報発信、その他調査分析提案等の業務)などがあります。

いくつかの事例の概要をご紹介しますので、ご興味のある方は確認してみてください。

空家等利活用相談窓口業務・プロポーザル結果
フレンドシップスクール運営業務・プロポーザル結果
小学6年生移動教室運営業務・プロポーザル結果
杉並区魅力発事業業務・プロポーザル結果


以上で選定された事業者の中には、その昔、区退職職員が天下り再就職したことのある事業者の名前もありますね。

これらは区民サービスに直接影響が出ない事務事業との解釈によって内部委員のみによる事業者選考を行っていますが、窓口業務のほか、学校行事・学校管理業務などは、区民に直接影響が発生する事務事業というべきであって、実際にも区民サービスに直接影響が出るものです。

純粋に内部職員のみに影響が及ぶ業務(職員の健康診断や職員研修など)について例外的に内部委員のみで事業者選考を行うケースがあることを許容するとしても、それを越える安易な拡大解釈は許されません

新区長は「参加型民主主義」「参加型予算」「参加と対話のまちづくり」などを標榜しているものの、実際の契約・指定手続において、その反映があるとはいえない状態が続いているのです。


4.選定委員と事業者との利害関係性などが問題となった事例(荻窪三庭園の指定管理者選考)


荻窪三庭園(荻外荘公園・大田黒公園・角川庭園)の指定管理者の候補者選考は、さらに疑問の多いものとなっていました。

選定された指定管理者は立派な事業者ですが、その一方で、区の選定過程については出来レースが疑われ、選定委員人選上の疑問、審査過程上の疑問、予算措置上の疑問など多くの課題が残りました。

これについては、あまりにも露骨な事例であったため、すでに速報版として次のページでお知らせしています。

民営化・指定管理者制度に懐疑的だった岸本聡子杉並区長が新たな区施設に対して制度導入に踏み切るのは、これが初になります。

今回のように誤解を招く選定過程が放置されていたのでは、いつしか区の選考の公正性・中立性に疑問が持たれるようになり、今後の公募で新たに応募してくれる事業者はいなくなってしまいます。

それは本当に区民のためになることなのか、よく考えなければなりません。

なお、通常の委託契約と異なり、民営化手法の一形態である指定管理者の指定については、最終的な決定権が議会にあります(地方自治法244条の2第6項)。この件は他と異なり安易に追認した議会にも大きな責任があります。


【堀部やすしの主張】プロポーザル方式による事業者選考を改善するために


今後プロポーザルを実施するにあたっては、

1.選定委員の過半数又は全員を外部委員としたうえで

2.選定委員名を事前公表(利害関係に疑いのある者を事前に排除)し、

3.審査対象となる「事業計画の要旨」「収支計画」なども事前公表とすることで審査対象の内容・論点を事前に明確化させ、

4.選定委員会の会議録や意見書も事後には公表するなど、審査の公正性・透明性を高めていくこと

などが必要です。

岸本区長が所信表明で「情報公開度ナンバーワン・透明度ナンバーワンの区政をめざします」と高らかに宣言したのは一昨年の話なのです。

透明度の高い先進自治体が以上のような形で支障なく選考作業を進めている事実を踏まえ、適切に改善を図っていかなければなりません。

ご意見はLINE公式アカウントへ

岸本区長が掲げていた「情報公開度ナンバーワン・透明度ナンバーワン」は、一体どこにいったのか、区長を信じている少なくない区民の期待を裏切ることのないよう出直しを図ることが必要です。

堀部やすしは、過去すべて無所属で当選していることから、基本的に政局や党議拘束の影響を受けません。あるべきコンプライアンスの確立に向け、今後も政局などに左右されることなく厳格に対応していきます。

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