ガレキの太鼓「没愛」本番中にハッとなったこと

先日、ガレキの太鼓『「没入すると怖いよね、恋愛」の略で没愛』が終演いたしました。ご来場いただいた方はもちろん、配信で観てくれた方、観るかどうか悩んでくれた方、心の中でひっそり応援してくださった方、ありがとうございました!

没愛キャスト集合写真

ゲネの後に撮ったキャスト集合写真。
スタッフの方も入った写真があって、本当はそっちを載せたいんだけど、ネットに勝手にアップされるのは嫌だなぁなんて方もいるかもなので、ここはキャストのみのを。
しかし今回の俳優陣は本当にみんな魅力的でした。このメンバーで会話劇とかしたらそれはそれでめっちゃ刺激的なんだろうけど、「没愛」はモノローグ多用、かつ出力高め・デフォルメありのコメディ芝居で、それによって全員のコミカルなところとチャーミングなところが惜しげもなく大盤振る舞いされていて、稽古場でも劇場でも共演者を「面白いなぁ面白いなぁ」と眺める日々でございました。

とはいえ、その「モノローグ多用 / コメディ芝居」ってところで僕は本番序盤まで罠にはまっていて、いや罠と呼ぶのも憚られるぐらいの超基本事項をすっぽかしていただけなんですが、でもだからこそ自戒のために今この文章を書いています。

「セリフは自分の状態を表すためにではなく相手を動かすためにある」

ってこと。
だいぶ当たり前のことなんですが、僕はこのことがとあるシーンで抜けてました。
それは僕が「物理学者」という役で登場する物語終盤のシーンで(「没愛」では主役のお二人以外は全員いくつもの役をかわるがわる演じるスタイルでした)、この物理学者は主人公に一方的にセリフを捲し立てる役でした。大体のイメージとしては物理学者が20秒くらいペラペラ喋った後、主人公が一言だけ反応する、それが数回繰り返されるというシーン。しかも「早口で」という演出が入っており、主人公が物理学者の言うことに理解が追いつかない様、にも関わらずの(だからこその?)物理学者のドヤ感に稽古場でも笑いが起こっていたので、僕はこの物理学者という役をしばらく、主人公が自分の言っていることを理解出来ないように話す、とにかく早口で話す、という方向で演じておりました。
それはそれで面白かったと思います。ただセリフはかなり不安定になりました。セリフの意味を無効化しようとして話しているんだから、セリフはただの音の連なりとなって、自分で自分が何言ってるのか分からなくなります。
そんなに稽古が出来てたシーンじゃないんですが、稽古場で最初から最後まで淀みなくセリフが言えたのは1回だけ。劇場入ってからは、とにかく口に馴染ませようと繰り返しセリフをブツブツしていたということもあり、場当たり、初日と危ないところはあれど何とかなったんですが、2日目で盛大に噛みました。
そして、このやり方はよくない、と自分の中でなり、そもそもこの物理学者は何のために話してるんだ?ってなったんです。「相手に理解させないように話す」というのは役ではなく役者の欲求であり、物理学者自身に「煙に巻きたい」という欲求は多少あるのかもしれないが、それが100%であったなら、こういう言葉たちを選択しないんじゃないか、そう思ったんです。

それでハッとしました。
物理学者の言葉を主人公が理解出来ないのは、単なる結果に過ぎない。理解させまいとしてセリフを投げるのは間違っているし、何だったらちゃんと理解させようとしてセリフを出すべきだ。ただ物理学者の発語のスピードメーターがぶっ壊れていて、なおかつ自己中心的で相手の反応を拾う能力が低いから、相手は物理学者の言うことを全然理解出来ないだけ。たどり着くところは一緒でも、根っこを真逆にしなきゃいけなかったのでは!?とそう思ったんです。
3日目からこのやり方で演じるようにすると、一気にセリフが安定しました。スピードは多少落ちたかもしれません。でもなんだろう、それも上げようと思えば上げれるし、下げようと思えば下げれる、という自由さを感じられました。単純に僕の肉体的にあのスピードが限界だったというだけで。逆にセリフをただの連なりとして口に出してる時は、身体に凄く嘘をついていたんだなぁと思いました。

「没愛」という芝居において、僕は任せられてるセリフの全体量に対してモノローグの割合がすごく高かったんです。何だったら全キャストの中でも一番高かったかも(絶対量で言えば主人公を演じた異議田さんのモノローグ量が尋常じゃなかったですが、その分異議田さんは会話も多かったので)。その中でほとんど一人で喋る物理学者という役のセリフをまるでモノローグのように考えてしまったんですけど、いや相手役がいる限り、その言葉が目の前にいる具体的な人間に飛んでいっている限り、それは会話なんだなぁと痛感しました。そして会話である以上、「セリフは自分の状態を表すためにではなく相手を動かすためにある」。

忘れないようにしなきゃ。

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