"演じるという事の最先端"という言葉から考えたこと(まとまってないです)

先日観劇した範宙遊泳の「バナナの花は食べられる」がずっと心に残っていて、それで他の方の感想なんかもtwitter(まだこの名前から離れる気にはならない。いつか諦めてしまうのだろうか……)で検索したりしてたんだけど、その中で「大昔の生き物さん」という方(というこのインターネット上の仮名で顔も知らない誰かのことを名指す状況が何ていうかとても範宙遊泳の劇世界っぽいなと思いつつ……)がnoteに書いた感想に行き当たった。

この「大昔の生き物さん」は演劇をめったに観ない方らしい。むしろ大人になってから観たのは初めてらしい。そんな方の感想や観劇という体験を通して感じたことの記述は僕にとって新鮮で、とても面白く拝読した。それで約5000字のこのノートを一気に読んだのだけど、その最後にとてもハッとなるような文章が出てきたので、引用させてください。

"舞台芸術は観客にも力量を要求するのだ。ただそういう観客だからこそ、色々と実験的なことができる。舞台は娯楽の基礎研究発表の場に思える。"
"演劇を観に行くことはハードルが高いし、小難しいかもしれん。ただ偶には演じるという事の最先端を観に行くのも乙だと思う。"

特に「演じるという事の最先端」という一語に「わわわ」となった。
まずほぼ観劇初体験の「大昔の生き物さん」にそう感じさせた範宙遊泳が凄いなと思うし、きっと「大昔の生き物さん」もとても文化的な教養・感受性・センスがある方なんだろうなぁと感じた。
しかし「演じるという事の最先端」とは……。舞台俳優であり、そして今現在初めて本格的に舞台演出に挑戦している自分にとって、緊張と高揚の両方を胸の中で生じさせてしまう言葉だ。

ここ数年の僕はマイズナーテクニックを自分の演技の機軸に置いて、いわゆる"ドラマ"的演技の道を進んでいると思うし、そういう演技が求められる作品が自分の出演作の中心になり始めてるなとも感じているし、その傾向はこの先しばらくはきっと増していくだろう(あんまり未来のことは分からないけど)。だからポストドラマ的な演劇が"最先端"として扱われることの多い昨今の流れからすれば(これは個人的な見解に過ぎないけれど)、自分は決して"最先端"にアプローチしようとしている演劇人ではないという意識があるし、それで良いと思っている。

でも"最先端"って何なんだろうな、とここまで書いて思った。そして"演技の最先端"と"演劇の最先端"は重なる部分は多いけれど、厳密にはまた違うんだろうな、とも。ただそこに"演技の最先端"があれば、それすなわち"演劇の最先端"にもなるんじゃないかと思うのは、僕が俳優だからだろうか。じゃあ"演技の最先端"って何?

今年に入って僕が、「ここに"演技の最先端"がある!」と感じた舞台はNTLの「かもめ」だった。もちろん鑑賞当時、僕には"演技の最先端"という語彙がなかったから、それは「すげえ!!」って言葉でしかなかったけど。剥き出しで荒々しくて、でも強烈に抑制が効いていて、鋭利かつ繊細な演技の連続。あれこそが僕にとっての"演技の最先端"であり、"演劇の最先端"であった。告白するけれど、あの「かもめ」を観た時に「こういう舞台がやりたい! 挑戦してみたい!」と思って、それが自分の企画mintonsに繋がっている。恥ずかしながら、直結している。

剥き出しで荒々しくて、でも強烈に抑制が効いていて、鋭利かつ繊細な演技の連続。NTL「かもめ」の演技は非常に"ドラマ"的な行為だったと思う。"役として舞台上で真実に生きる"ということへの挑戦(そこには"別の人間になることなんて不可能だ"という絶対的な事実もついてくると思っていて、でも、いやだからこそ、そこに少しでも近づこうとする行為が僕にとってはとても尊い)がそこにはあったと僕の目には見えた。と同時にあの舞台の演技は"最先端"だったと僕は感じた。そしてそんな演技たちの鋭さを演出によって倍加させていた。極端なミニマリズムで演出された「かもめ」。観るべきものは俳優の身体、聴くべきものはその身体から発せられる言葉たちしかない「かもめ」。

この文章がどこに向かっているのか自分でも分かっていないのだけど、ここまで書いてきて、僕がmintonsでやりたいのは、自分たちなりに"演技の最先端"を模索することなんじゃないかな、ということを断定とまではいかずとも、ある程度の自信を持って言えるようになった。がんばろう。"最先端"はきっと一つじゃない。だからこそ自分たちなりの"最先端"を探り当てるように稽古をしていきたい。

疲れたのでここで終わります。
この後稽古なのに、疲れちゃったよ!

最後にmintonsの公演情報を。


mintons「温室の前」
作 岸田國士 / 演出 ホリユウキ
2023年10月7日(土)〜9日(月・祝)

出演
熊野善啓 豊田可奈子 佐藤千夏 沼田星麻

料金
予約 2800円 / 当日 3000円

劇場
SCOOL
東京都三鷹市下連雀 3-33-6 三京ユニオンビル 5F
JR三鷹駅徒歩3分


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