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八戸の新スポット Saule Branche Shinchõ

青森県は、ひそかに音楽トピックが熱い地域です。弘前出身で、現在はアルゼンチンを拠点に活躍する天才笛吹き岩川光さんや、青森市出身(らしい)でニューヨークのコンテンポラリージャズシーンで気を吐く作曲家・ラージアンサンブルリーダーの挟間美帆さんをはじめ、伊藤ゴローさんや類家心平さん、大谷能生さん、haruka nakamuraさんなどワールドワイドに活躍し、個性と実力を併せ持つ、独特のアイデンティティを持つミュージシャンを多数輩出しているのです。

その一方で、あくまで地元をメインのグラウンドにして活動するすばらしいミュージシャンたちもいます。その中でも代表的な人たちがTac zodiak(vo,g)とYam zodiac(perc,cho)のデュオユニットzodiac nova,pop machine & contemporary system(通称zodiac)。地元八戸周辺の民謡とブラジリアン・ミュージックを独自の感覚でミックスし、空想風味とちょっぴりの社会風刺を込めた歌詞で彩られた音楽で、青森県内で絶大な人気を誇っているユニットです。類家心平さんとも親交が深く、よく共演されています。自主制作でリリースされた目下のところ唯一のミニアルバムは、音楽評論家、エンジニアの高橋健太郎さんが録音を手掛けています。

さて、そんなzodiacのふたりが、今度八戸市にSaule Branche Shinchõというお店を出店しました。もともとTacさんこと吉川さんは八戸の中心地にあるSaule Brancheというカフェ・バーの名店のオーナーとしても有名なのです。同店では、zodiacのライヴをはじめ、落語やトークなどのイベント・シリーズ「喫茶の文庫」なども催され、ファミリーと言えるくらいの固定ファンがたくさんついています。この「そーる・ぶらんち・しんちょう」は、同店の別ヴァージョンとでも言えば良いのでしょうか。

さっそく行ってきましたので、写真付きでリポートします。

お店はJR八戸線の小中野駅と陸奥湊駅のやや中間くらいにあります。歩く距離としたら、陸奥湊駅からの方が若干近いでしょうか。お店のFacebookページ内の地図アプリではなぜか何もない川沿いにあるように表示されていますが、実際はバス通り沿いにあります。

ここがそーる・ぶらんち・しんちょうです。建物がまず、カフェっぽくないですよね。実はここ、もとは「旅館」だったんですって。タクさんの奥さまのおばさまがやっておられて、亡くなった後タクさんご夫婦が譲り受けて一時期住んでいたのですが、ふたりで住むにはちと大きすぎる、と。で、お店にでもしてみようかということでちょこちょこ手を加えて5年。そーるぶらんちも営業しながらの改装ですから、なかなか進まなかったそうですが、年末ぎりぎりになって、とうとう開店したというわけです。

というわけで、このお店でまず面白いのが元・旅館の部分をどうリノベーションしてるかというところ。見てていろいろ楽しいです。

いろいろ店内を見ていて気付いたのですが、リノベのセンスももちろん良いのですが、この旅館のデザイン自体がけっこうモダンでカッコいいんですよ。街の小さな旅館って、侮れないなと思いました。そういう良さを活かすために、カヴァーされていた部分とかを剥がしてわざと剥き出しで見せている部分もけっこうあるとのことでした。

ちなみに、リノベ話だと十和田市のCafe Happy TREEさんを取材したこんな記事もあるので、ぜひお読みください♪

このお店のもうひとつの特徴は「展示+カフェ」という形式で営業していることです。2階で絵の展示などをやる時にカフェとして不定期開店するという、カフェ付きギャラリーなのです。で、記念すべき最初のギャラリーは、画家でもあるYamさんのトルホヴォッコ原画展。「トルホヴォッコって何?」と思った方もいらっしゃるでしょう。実はゾディアクのおふたりは、八戸市の南郷文化ホールで、毎年自作巨大絵本とオリジナル曲を使ったトルホヴォッコという子どものための舞台劇も上演しています。その様子や音楽を少し見ることができますので↓で。

ゾディアクのおふたりはほんと、青森の誉れだと思っているのですが、その最たるものがこれです。こんなすごいものに、八戸の子どもたちは触れているのです。で、この絵本を描いたのがYamさんなのでした。ちなみに、上の音源、今年のトルホヴォッコでウッドベースを弾いているのが、弘大ジャズ研で私の一年先輩だった売れっ子のプロ奏者、工藤精です。工藤さんもこのトルホヴォッコのすばらしさに感銘を受けて参加したみたい。

カフェとしてももちろん居心地が良いです。2階があるのって、働くおふたりにとってはそれなりに大変みたいですけど(笑)、ふたりで楽しそうに笑いながらやっているのも良い感じです。

店内のイスやテーブルは、リサイクルものが多いとのこと。また、一階に置いてあるイスとテーブルはお友達に作ってもらったそうです。タクさん曰く「行ったことはないんだけど(笑)、ブラジルのカッコいいホテルのロビーがあって、そのイメージで作ってもらった」とのこと。基本的に、子どもも来たりするお店なので、座りやすい、高さが低いものが多いです。

私と相席でコーヒーを飲んでらした年配の女性が、そのやりとりを聴いて「あら、全部自分たちで作ったんじゃないの? ちゃんと全部やらなきゃだめじゃないの(笑)」ってからかってらしたのですが、「地方のお店が新しく開店する時は、仲間や周りの方たちと一緒に協力して盛り上げるってことが大切みたいですよー」みたいなことを申し上げたら「確かにその方がいいわよねえ」と納得されたご様子。まあ、前出の十和田のCafe Happy TREEのユージさんからの受け売りなんですけど。

あと、店内にはいつも音楽が流れています。基本的にタクさんがiPodをつないで流しているみたいですが、レコードプレイヤーなんかもあちこちにあります。

そして、ここのお店の特徴はもうひとつ。本とかCDを売っています。一枚500円で中古レコードもありました。中近東音楽・料理研究家のサラーム海上さんのzineもサイン付きで販売していました。私が監修した『中央ヨーロッパ 現在進行形ミュージックシーン・ディスクガイド』も置いてくださっているそうです! やった!

そして、この寒い冬を温めるのは青森市のWoodrackさんの薪ストーヴ。ウッドラックには私たちの共通の友人が働いているので、これもまた「みんなで協力して作る」の見本。良い感じですね。

そーる・ぶらんち・しんちょうでは、これからギャラリーだけじゃなくて、音楽的な催しもやって行けたら、とのこと。いろいろ楽しみです。八戸に観光にいらっしゃった際は、ぜひぜひ行ってみてください。すばらしいミュージシャンがふたり、和気あいあいとやっています。ただし、開店日はホームページでチェックしてくださいねー。不定期開店なので。

Saule Branche Shinchõ そーる・ぶらんち・しんちょう

http://saulebranche.info/
平日14:00~20:00/日祝日12:00~18:00
〒030-0802 青森県八戸市小中野8丁目8-40
はちのへ市営バス・南部バス「新丁」バス停すぐそば

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