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秋、三十路、思い耽る

「経験豊富ですね」
「色んなことをやってきたんですね」
と言われることが、しばしばある。

前者についてはこのあと。後者はまあ、そうかもしれない。変な道を歩んできた自覚はある。色んなところに首を突っ込んできたことにちがいない。
でも、あたりまえなんだけど、みんな、通ってきた道以外のことは経験していない。
10代20代なら、経験の量が無いから、少ない経験の質が瞬間風速的な違いとなって、差に見えているかもしれない。
だが30代のいま、同世代の誰だってそれなりの量をこなしてきたわけで、ならしてしまえばみんな経験はある。
話を戻す。そういう、ある程度みんな経験はある年齢になったいまも、ときどき上にあげたような言葉をときどきもらう。
だが、私は経験豊富なんかじゃ無い。さも熟達者かに言うような言葉を投げないで欲しい。そう言いたくて仕方が無い。
経験を積んだ年齢とはいえ、ようやくそこそこの量になってきた程度のことだ。そのなかで違いを生むのは、ほかとは全く異質の経験か。一貫して深掘りをしてきたか。いくつかの経験を組み合わせて相乗効果を作り出せるか。そういうところだ。
私は、経験の種類の多さ以外に人に言えるものがない、そう自分でも思っているからなのだろう。自己紹介などで、つい色んなことをしてきたと言ってしまう。
だけど、わかっている。
それはつまり、何も深く掘り下げていないってことだ。そして、現状とくに相乗効果を生む組み合わせを見つけられていない。
唯一ある「経験の多さ」は、同時に「個々の経験の浅さ」という最大のコンプレックスとなっている。
なにかあるはずだ、と思い手札を見るが、焦りと意地のせいか、閃きが弾けそうで鎮火する。
そんな感じで、燻って燻って、そろそろいい燻製になりそうな秋。

まあ、これからも新たに挑戦していくんだけどさ。やっぱり、歩いてきたものが地肉になるわけだから。

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