俺のおやじ、ミノル 【其ノ弐拾漆】 〔番外編〕俺のおふくろ、ノブコは●●●の手を離したことがある
俺のおやじ、ミノルは改めて綴るまでもなく
最近の悪ガキも恐れをなすイタズラ坊主だったが、
実はおふくろ、ノブコにもイタズラの遍歴があった。
時は昭和20年代前半、戦後の混沌としたご時世のこと。
とにかく毎日生きていくのに精一杯で
小学校で勉強しているような時代ではなかったらしく
両親からは家の手伝いをしなさいということで
毎日のようにお使いをしたり、
カツコという妹と二人で乳飲み子の弟(トシあんにぃ)
の子守をしていたのだそうだ。
・・・・・・・・・・・・
そんなある日のこと。
カツコおばちゃん(当時はまだ4、5歳くらいか)と
トシあんにぃを乳母車に乗せて二人で押していた時、
突然カツコおばちゃんが、ささやいた。
「ねえちゃん、手、はなしてみない?」
まさに、悪魔の囁きである。
長女で生真面目なノブコは、もちろん拒んだ。
しかし、執拗な悪魔は、諦めなかった。
その悪魔の誘惑に、ノブコは負けてしまったのだ。
「はなしてみよっか・・・」
そこは、やや下り坂になった田んぼ道の上方。
運が悪ければ田んぼに落下。
よくても、突き当たりは霞ヶ浦である。
まぁ、霞ヶ浦に落ちる可能性は2%、
田んぼに真っ逆さまに落ちる可能性は97.9%
奇跡的に止まる可能性は0.1%といったところであろう。
そして、カツコおばちゃんとノブコは
乳母車からすっと手を離した。
結果は・・・・・・・・
ガラガラガラガラガラ・・・
ドッシャーーーン(落ちる音)
バッシャーン(水しぶきが上がる音)
20mほど進んだ先で、
田んぼへと落下していったのであった。
幸い、田んぼに人がいた。
その人はもちろん近所の人で
おふくろもカツコおばちゃんも知っていたので
近くで宮大工仕事をしている父親(俺から見たら祖父)を
大声で呼んでくれて、なんとか事なきを得た。
ノブコとカツコおばちゃんは母親にこっぴどく叱られて
泣きじゃくりながら家を飛び出し、
霞ヶ浦のほとりに腰掛け二人で縮こまっていたそうである。
夕方父親(名は佐伝という)が家の前から
「おめえら、もうおごんねえから(怒らないから)
帰ってこい。ごはんだ」
と声をかけてくれて、ようやく気が収まったらしい、
とそのまた妹のキヨコ姉ちゃんが教えてくれた。
その後、この話が出るたび、
トシあんにぃに
「おら、いしゃ(「お前」の意)らに
殺されかけたんだからな٩(๑`^´๑)۶!」
と冗談半分にどやされたそうである。
(トップの写真:おふくろ24歳。俺=生後2カ月)
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ちなみに、うちの方の田舎の田んぼというのは
高いところで道からの段差が5mほどある。
トシあんにぃが落ちたあたりは
幸い2m程度だったらしい。
前にうちのおやじが田んぼにダイブした話を書いたが
その場所も2m程度の高さから
気持ちよく飛び込んでいたようだ。
なお、トシあんにぃには別の伝説があるのだが
いずれまたお話しすることとしよう。
ではでは、また。
ぴーこ
実家にいた頃は、俺にはおやじはいるのか?と思うくらい、夜遅くまで呑みあるっていて顔を見る機会も少なかったおやじ、ミノル。晩年は缶ビール1本を飲むか飲まないか、というレベルの酒量でしたが、それでも楽しく嗜んでいたようです。おやじへの酒代として大切に使わせていただきます。