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俺のおやじ、ミノル 【其ノ弐拾壱】 俺のおやじ、ミノルは「俺」よりも「物」を大切にする性分であった。


あれは、俺が小学校4年生の時のことだった。

うちの町内にはいじめっ子がいた。
俺より1、2年上級生なのだが、
どうやら自分が強いということを誇示したいのか
下級生を一人ずつ絞めていたのだ。


そして、俺の順番が回ってきた。

帰宅途中でそいつにつかまり、
やや幅の広いドブに落とされた。

が、そいつも俺を絞めるために
ドブに一緒に降りてきた。


かくして、俺はそいつに首に腕を絡まれ
身動きを止められた上で
ボコボコと拳骨で突かれた。


俺は親父とは違い、一人っ子ということもあって、
喧嘩というものにはとんと縁がなかったので、

ただ怖くて泣いていたと思う。
が、不思議と痛みは感じず、
怪我らしい怪我もしなかった。


もっとも、そいつもただ
脅すのが目的だったのかもしれない。

さて、膝から下を泥と油で
ぐっしょりと濡らして帰宅した俺は

おふくろに何があったのかと咎められ
ドブに落とされてこうなったのだと
ことの一部始終を話した。


そして、夜帰宅したおやじに
おふくろがそのことを話した。

すると、おやじは俺に
そいつの名前と家を確認した後

おもむろに「これから文句言いに行ってくる」
と出かけて行ったのだ。


なんと行動の早いオヤジ!

「まさかぷっ懲らしに行くんじゃないよな…」
(=佐原の方言で「ぷっ懲らす」は「ぶん殴る」の意)
と内心ビクビクしていたが、

20分ほどして、オヤジは帰ってきた。

そして、開口一番、こう言い放った。


「行ったら野郎の親父がいだがら、
おめえんちのせがれにうぢの息子が
ドブさつきおどされで、 
ズボンと買ったばっかりの運動靴が
油が染み込んで履けなくなっちまったじゃねーが。
どーしてくれんだ(゚Д゚)!!
って文句垂れで来たわ!」


それを聞いたおふくろ、

「そだよ、高かったのに!」


うーん。なんかずれてる気がするんだが……

まっ、いいか!?


その後、俺はそいつからいじめられることは
全くなかった。

それどころか、そいつの弟(此奴もツッパリだ)
が、なぜかうちに遊びに来るようになってしまった。

………
 

俺、呼んでねーぞ٩(๑`^´๑)۶!!


しかも、ビカビカの電飾自転車で、
来んじゃねーよ!!!
(当時の流行りでした。ちょっと羨ましかった(笑))


ぴーこ

実家にいた頃は、俺にはおやじはいるのか?と思うくらい、夜遅くまで呑みあるっていて顔を見る機会も少なかったおやじ、ミノル。晩年は缶ビール1本を飲むか飲まないか、というレベルの酒量でしたが、それでも楽しく嗜んでいたようです。おやじへの酒代として大切に使わせていただきます。