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2022年海外ミステリー1位はイギリスの新しい才能だった〜「われら闇より天を見る」

昨年末発表されたミステリーベスト、一番気になった作品が、クリス・ウィタカーの「われら闇より天を見る」だった。

週刊文春「このミステリーがすごい」ともに、4年連続でアンソニー・ホロヴィッツの作品が1位。今回も新作「殺しのライン」での5連覇がかかった。これだけは先に読んでおこうと結果を見る前に読了、結構な出来だったが、結果は2位。

そして、1位を獲得したのが「われら闇より天を見る」だった。週刊文春の点数を見ると、3位のホリー・ジャクソン「優等生は探偵に向かない」120点、2位のホロヴィッツが155点に対し、1位は大きく離して225点である。内容も私好みの感じである。

物語のプロローグは、行方不明になった7歳の少女シシー・ラドリーの捜索シーン。カリフォルニアの海岸沿いの町、捜索隊に混じった15歳のウォークとガールフレンドのマーサ、シシーの姉でマーサの親友のスター、そしてウォークの親友ヴィンセント。ウォークが見つけたのは、<小さな靴だった。赤と白の革。金色の留め具。>

その事件から30年の時が流れる。ウォークは警察署長に、スターには13歳の娘ダッチェスと5歳の息子ロビンがいる。ヴィンセントは。。。マーサは。。。

”ミステリー”であり、それも良くできたミステリーである。しかし、その前にこの作品は素晴らしい小説、”ミステリー”を読まない方にも是非手に取って欲しい。

昨年の週刊文春12月8日号に掲載された著者クリス・ウィタカーのコメントにこうある。

<私が語ろうとしたのは十三歳の少女の一年間の物語にすぎません。中心には確かに謎(ミステリー)がありますが、これは成長小説であり、家族と赦しについての物語〜(中略)〜と考えています>

この小説の原題は、”We Begin At the End”、シシーとスターの父、ハル・ラドリーのこんなセリフがある。<「われわれは終わりから始めるんだと牧師は言う。だとしたらこの歳月をおれはもう少し穏やかに過ごせたはずだ〜」>。

「われわれは終わりから始める」、含蓄のある言葉であり、そのまま邦題にすれば良かったのではと思った。しかし、「われら闇より天を見る」もなかなかに良いタイトルである。

2020年のディーリア・オーエンス「ザリガニの鳴くところ」(上記ベストで2位。本屋大賞翻訳小説部門1位)、「ラスト・チャイルド」(2010年 文春1位)などのジョン・ハートといった、ミステリーの形式を取りながら、素晴らしい物語を紡いだ作家を想起させた。

アメリカはまた新しい才能を生み出したと思っていたのだが、”解説”を読むとクリス・ウィタカーはロンドン生まれのイギリス人。本作は第三作で、イギリス人でありながらアメリカを舞台にした小説を書いている。作家になるきっかけとして、上記の「ラスト・チャイルド」に感激したことが書かれていた。

なお、本作は2021年英国推理作家協会の最優秀長編賞ーゴールド・ダガー賞を受賞している。最初、「アメリカ人作家でゴールド・ダガーか」と思ったがイギリス人だったのだ。ちなみに、米はアメリカ探偵作家クラブのエドガー賞が有名で「ラスト・チャイルド」は本賞を受賞している。

今後が楽しみな才能が登場した

*逝去された北上次郎さんの書評です



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