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ボブ・ディラン降臨〜まさしく“Rough and Rowdy Ways“ツアー


妻はボブ・ディランのコンサートに行くに際して、「予習が必要」と話していた。まさしく、その通りである。彼女は数週間、ボブ・ディランの曲を聴き、先日紹介した北中正和著「ボブ・ディラン」を拾い読みしていた。

私は彼のコンサートに過去2回行っている。最初は、1994年3度目の来日公演、日本武道館である。“Jokerman“で始まったコンサートは、あまり予備知識のなかった私にとっては、過去の名曲をアレンジを大幅に変えて演奏するスタイルが驚きだった。

2度目は2015年10月21日ロンドンのロイヤル・アルバート・ホール。出張時に偶然コンサートがあることを発見し、出かけた。2012年にオリジナル・アルバム「テンペスト」、2015年スタンダード曲のカバー・アルバム「シャドゥズ・イン・ザ・ナイト」をリリースしていた。「テンペスト」好きなアルバムで、この作品に収められた楽曲と、“Autumn Leaves“などのスタンダード曲を中心に構成された、とても良いコンサートだった。ただ、突然行くことを決めたので“予習“の余裕がなく、総体としてボブ・ディランをどこまで捉えることができたのか、少し悔いも残っていた。

その意味で、今回は比較的“予習“ができた。もちろん、膨大な量のディランの作品群をすべて頭に入れることなど不可能なのだが、過去2回に比べると、彼の世界に数歩近づけた気がする。

会場は有明の東京ガーデンシアター。初めて行く会場である。4月15日、開演は17時、サイドのブロックだが11列目の良席である。客入れBGMなどない、静かな会場で演奏が始まったのは、なんと17時数分前! バックに赤いドレープがかかるのみのシンプルなステージ、中央に縦置きされたピアノにボブ・ディランは位置し、立っての弾き語りである。

最初の曲は、“Watching the River Flow“。基本的に事前情報を遮断していたのだが、このオープニング曲は情報が入っていた。シングルで出た後、「グレーテスト・ヒット第二集」に収められている。 続いて“Most Likely You Go Your Way (and I'll Go Mine)“。例によってアレンジが全く違うのですぐには分からないのだが、<🎵When you go your way and I go mine>という歌詞で判明する。

この後、ツアータイトル通り、アルバム「Rough and Rowdy Ways」からの作品が演奏される。結局、このアルバムからは、JFケネディ暗殺を歌った、長い長い(17分)“Murder Most Foul“以外は全て披露された。“Mother of Muses““Key West“など心に染みる曲が、ボブ・ディランの歌声にのる。来月82歳だが、衰えは全く感じられない。また、物語性のある詩を歌うディランは、タイムスリップしてきた、吟遊詩人のようでもある。

“When I Paint My Masterpiece“、上述の本で再認識した名曲。これがセットリストに入ったのはうれしかった。さらに、アルバム「John Wesley Harding」から“I'll Be Your Baby Tonight“!!

会場が熱狂したのが、バディ・ホリーの“Not Fade Away“が始まった時。ローリング・ストーンズや、グレイトフル・デッドもレパートリーとしたこの曲を、ディラン流のアレンジは施さず、ストレートに演奏した。後で調べると、2009年以来、14年振りの演奏である。なお、このスロットは日替わりで様々な曲が演奏されており、前日は“Brokedown Palace“、12日は“Truckin‘“。どちらもグレイトフル・デッドの曲で、ライブで初めて演奏され一部で話題になっている。

ボブ・ディランは終始ピアノに座り(ハーモニカ演奏あり)、動きは椅子に座ったり立ち上がったりのみ。照明は落とされ、表情はよく見えない。広いステージだが、バンドは小さくまとまって位置する。大会場であるが、まるでクラブの隅っこで演奏されているようであった。

ラストは、「Shot of Love」から“Every Grain of Sand“。スタンディング・オベーション、アンコールはなし。ディランが歌以外に発したのは、“Thank You“を2回、メンバー紹介くらいだった。

私にとっては、素晴らしい夜だった。会場出口付近で、一人の女性が「有名な曲、全然やらなかった」。ボブ・ディランはあくまでも現在進行形であり、聴衆がノスタルジックな心地よさに浸ることを許さない。我々も、進化しなければならないのである



(蛇足)

演奏の質とは無関係だが、今回のチケット代S席は26,000円、Gold席は51,000円。Gold席は売れ行き好調だったが、8000席を満杯にはできなかったようだ。3層のバルコニー席の最上階は客を入れていなかった。

携帯電話は特殊カギ付きのポーチに入れて入場。係員に頼まなければ開けることはできない。写真撮影・録音を厳密に防ぐためのようだ(にも関わらず、“Not Fade Away"を隠し撮りした人がいた)


メンバー

Bob Britt ギター
Tony Garnier ベース
Donnie Herron バイオリン・ペダルスティールなど
Doug Lancio ギター
Jerry Pentecost ドラムス


セットリスト [収録アルバム、記載なしは「Rough and Rowdy Ways」]

Watching the River Flow [Greatest Hits Volume II]
Most Likely You Go Your Way(and I'll Go Mine) [Blonde On Blonde]
I Contain Multitudes
False Prophet
When I Paint Masterpiece [Greatest Hits Volume II, Another Self Portrait]
Black Rider
My Own Version of You
I'll Be Your Baby Tonight [John Wesley Harding]
Crossing the Rubicon
To Be Alone with You [Nashville Skyline]
Key West(Philosopher Pirate)
Gotta Serve Somebody [Slow Train Coming]
I've Made Up My Mind to Give Myself To You
Not Fade Away [Cover: Buddy Holly & The Crickets]
Mother of Muses
Goodbye Jimmy Reed [Shot of Love]

*こちらはロンドンの時の写真

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