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奇跡の「ウェスト・サイド・ストーリー」〜生まれ変わった名作(その1)

コロナ禍が再拡大する中、ここのところの週末は、必要最小限の活動に留めていたが、3回目の接種もすみ、多少はよかろうと新宿に出た。目的は映画、「ウェスト・サイド・ストーリー」である。

あの名作をリメイクする、しかもスピルバーグが。これだけでも事件であり、よくぞ実現してくれたという映画である。

名作のリメイクほど難しいものはない。オリジナルを観ている人はどうしても比べてしまう。それを打破しようとして独自色を出そうとると、「オリジナルの良さを壊した」と批判される。

この新作を観た後、夕食を食べながら1961年制作のオリジナル「ウエストサイド物語」(近々WOWOWでも放送)をテレビで流していた。妻が、「よくこれをリメイクする勇気があったね」と呟いた。

米国のオフィシャルサイトに掲載されているスピルバーグのコメントには、<この映画は自分のキャリアの中で、おそらく最も困難(daunting)な作品だ>とある。そして、<名作を別の視点、違った感性を通じて制作することは、とても恐ろしい(intimidating)ことである>。しかし、<偉大な物語は、違った観点や時代も反映しつつ、繰り返し語られるべきである>(拙訳)と書かれている。

スピルバーグにして、難しいとした「ウエスト・サイド」の物語の再生は成功したのだろうか。

映画を観ながら、改めて感じたことの一つは、音楽の素晴らしさである。全編に流れるレナード・バーンスタインの音楽は、スピルバーグの言葉を借りると<劇場のために書かれた、最も偉大な音楽>であり、映画はそれを損なうことがあってはならない。

オーケストラはニューヨーク・フィル(一部LAフィル)、指揮はLAフィルの監督、パリオペラ座の次期監督でもある、ベネズエラ出身のグスターポ・ドゥダメルである。

そして、音楽の素晴らしさを厚みのある芸術へと進化させるのが、ダンスであり演技で、若いキャスト達が1950年代のニューヨークの空気を体現していた。

正直言うと、オリジナルでナタリー・ウッドがその魅力を全開にしたマリア役、レイチェル・ゼグラーについては少し不安だったのだが、歌も含めて瑞々しいパフォーマンスだ。

シェークスピア「ロミオとジュリエット」の有名なバルコニーの場面を、NY裏町の非常階段に移し替えた有名な場面も、名曲「Tonight」と共に、見事に再現してくれた。

ここまでは、スピルバーグ版「ウエスト・サイド」は、オリジナルのリメイクに見事に“成功“したという話である。しかし、この映画は“成功“に留まらず、名作が生まれ変わる“奇跡“を起こした。

奇跡のリメイクとなった理由の一つが、リタ・モレノの存在である。彼女のこと、そして“奇跡“を起こさせている現実ついて、明日もう少し



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