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神田松鯉が読む、刃傷沙汰に翻弄された男〜新宿末廣亭11月下席

今年もこの季節となった。新宿末廣亭11月下席の夜の部は、神田松鯉による「赤穂義士伝」特集である。私は2日目の11月22日、末廣亭へと向かった。夜席の開始直後、17時少し前に入場したが、1階椅子席は1席のみ空いていた。昼席から居残っているお客さんもいるが、老若ミックスで上々の入り、その後は2階も開いた。

客席が賑わっていると、演者の芸も締まる。良い流れで番組は進み、ねづっちはなぞかけ以上に漫談のパートで沸かせ、今年真打に昇進した昇也の「壺算」で客席は盛り上がった。師匠の昇太ゆずりのネタだろう。熱演で、楽しませてくれた。

その流れを一旦収めるかのように、遊雀が脱力した高座を披露する。多くの客が目当てにしている、中トリの伯山に向けての流れを作るところは、流石である。

神田伯山は大岡政談もの「三方一両損」。江戸っ子の意地の張り合いを、大岡越前守が見事に裁くという有名なお話。今さらではあるが、伯山の講談は分かりやすい。寄席の客も抵抗感なく受け止められる。特にこの演目などは鉄板ネタだと感じた。もちろん、師匠が主任で講談好きの人が集まっているだろうが、客席をしっかり楽しませた上で、松鯉の高座につなげたのだろう。

中入り後、いつもながら安定感抜群の阿久鯉、「紋三郎稲荷」から得意の踊りで寄席に華やぎを添える小助六。ボンボンブラザースは、客席からの参加者が帽子投げをピシッと決め、気持ちが良くなった。

そんなところで、人間国宝・神田松鯉登場。

今日は数百席ある赤穂義士伝の中から、少し珍しい話として「梶川与惣兵衛」を読む。大事件に翻弄されるのは、当事者だけではない。浅野内匠頭が殿中にて吉良上野介に対し刃傷に及ぶのだが、これによって藩中の一族郎党は大いに影響を受ける。これが赤穂義士銘々伝の中心だが、こんなとばっちりを受けた人もいたのだなぁというのが、この話である。

天皇から幕府への勅使の接待役に指名された浅野、その指南役が吉良だったのだが、吉良は田舎侍と浅野を馬鹿にし、散々意地悪や侮辱行為をはたらく。遂に堪忍袋の尾が切れた浅野が、松の廊下で吉良に斬りかかる。残念ながら、致命傷を負わせることはできず、側にいた侍にはがいじめにされてしまう。この侍が梶川与惣兵衛である。

梶川は殺人を未然に防ぐという当たり前の行為をしたのだが、その後の彼の態度がいけなかった。しかも、世論は赤穂藩びいきである。人間、どこに災難が転がっているかわからないが、その時の態度こそが人の器を表す。

結果、梶川は老中から呼び出しをくらうのだが、この時の松鯉の造形が印象に残る。声のトーンで、老中の人格の大きさを見事に表現し、梶川の小人ぶりを際立たせる。

なお、梶川への説教の引き合いに持ち出されるのが、曽我兄弟による工藤祐経仇討ち。鎌倉時代の出来事であるが、江戸時代の人にとっては馴染みの深い出来事。そのことについては、またいつか記したい。

ともかくも、今年も松鯉先生の赤穂義士伝を聴くことができ、いよいよ年末へと向かう


11月22日新宿末廣亭 夜の部

三遊亭花金 「寄合酒」
青年団  コント
三遊亭王楽 「普段の袴」
昔々亭桃ノ介 「持参金」
ねづっち  漫談
春風亭昇也 「壺算」
三遊亭遊雀 「浮世床」
東京ボーイズ  音楽漫談
神田伯山 「三方一両損」
中入り
マグナム小林  バイオリン漫談
神田阿久鯉 「太閤記〜間違いの婚礼」
雷門小助六 「紋三郎稲荷」〜かっぽれ
ボンボンブラザース  曲芸
神田松鯉 「梶川与惣兵衛」


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