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恒例、神田松鯉の読む怪談〜新宿末廣亭七月上席 夜の部

新宿末廣亭、七月上席は恒例の人間国宝 神田松鯉による怪談特集である。私は2018年「雨夜の裏田圃」、2019年「お岩誕生」、2021年「小幡小平次」と聴き、今日は「番町皿屋敷」である。

17時頃に入場すると、二つ目の昔々亭昇が高座に上がっていた。続いて上がったのは、コント青年団。いつもながらに、良い味を出している。三笑亭可風「松山鏡」の後は、三遊亭萬橘「代脈」。この人の芸は、ちょっと狂気が感じられ、この「代脈」も医者の弟子、銀南の造形にそれが表れている。好きな噺家である。

ポロンが奇術で和ませた後に登場したのが、雷門小助六。これが前半のコアとなった。雷門一門と言えば、寄席の踊り。この小助六も踊りの素養があり、この日の「虱茶屋」はそれをふんだんに生かした演目。お茶屋遊びをする若旦那だが、イタズラ心が過ぎて、骨相を見ると偽って、芸者・たいこ持ちの襟口から、シラミを放り込む。ハイライトは、痒さを紛らわせながら、「夜桜」を踊るたいこ持ち。一八の所作が素晴らしい。小助六、貴重な存在である。

芸を堪能したところで、桂伸治が登場。「笑点」メンバーとなった宮治の師匠である。伸治の“ニン“がしみ出る「初天神」。ねづっちが客席を沸かせて、神田伯山へとつなぐ。

マクラは短く、4500席近くある講談の演目から、「好きな話」「多分寄席では初めて」と語りつつ、本題に入る。八代将軍徳川吉宗の若き日、大岡越前と出会い叱責され、そして改悛する吉宗。将軍となった吉宗は大岡越前と再会する。気持ちの良いエピソードであり、伯山は聞くものの気持ちをスカッとさせる。日本は名君を欲している。

中入り後、宮田陽・昇の漫才。いつも安定的な笑いを提供してくれるのだが、いつも以上に切れ味が鋭かった。客席は弛緩状態だが、神田阿久鯉がピシッとしめる。講談「天明白波伝〜徳次郎の生い立ち」。彼女のこのネタを聴くのは3回目なのだが、いつもに増して安定感を感じた。気持ちの良い高座である。

三遊亭遊馬「道具屋」、ボンボンブラザースの曲芸と続いて、いよいよ主任の神田松鯉登場である。

「番町皿屋敷」、この怪談を基にした落語の演目、上方の「皿屋敷」や東京の「お菊の皿」は、よく聞いているが、これらは怪談をなぞるわけではなく、お菊の幽霊とその見物客のドタバタ喜劇である。考えてみると、そもそもの怪談を読んだり聴いたりしたことはない。

様々なバリエーションがあるようだが、松鯉先生が速記本から起こしたらしき「皿屋敷」はこうである。

話は、徳川秀忠の娘、千姫に遡る。彼女は男を引き込んでは、井戸に放り込んだという伝説が。その井戸はまだ残り、そこに屋敷を構えたのが旗本の青山主膳。この屋敷に菊という女中がいるが、彼女の父は豊臣方の残党、高坂甚内。青山は彼を捕らえ斬首するが、娘はあまりにも不憫なので生かしおき、女中として召し抱える。菊にとって青山は、命の恩人であり、父の仇でもある。

この青山、成長した菊に言い寄るのだが、菊はこれをはねつける。そんな彼女に同情するそぶりを見せながら近づくのが、青山家の用人、相川忠太夫である。相川の魂胆は、菊を自分のものにすること。最低の男である。

拒否された、男二人、青山家家宝の皿を一枚隠し、お菊に数えさせる。一枚足らないと、責任を追求し、挙句の果てに、例の井戸に放り込む。多くの人の怨念が込められた井戸、お菊はこの世のものではなくなり、復讐に向かう。

私は、青山が犠牲者だと思っていたのだが(そういう型もある)、松鯉版では相川の家がクライマックスとなる。帰宅した相川が、玄関の靴脱ぎで見るのは女の庭下駄。これが印象的な光景である。そして、女の来客があると告げられる。。。。。。

人間国宝の話芸、堪能させて貰いました。残る演目は「乳房榎」、来年制覇できるか

なお、新宿末廣亭は10日まで、浅草演芸ホール七月中席後半(夜)も、松鯉の怪談特集です




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