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蓮實重彦の選ぶジョン・フォード監督作品〜「リオ・グランデの砦」

元東大総長、文学者で映画評論家でもある蓮實重彦が、今年「ジョン・フォード論」を上梓した。文藝春秋の8月号に、そのさわり“ジョン・フォードこの20本“という記事が掲載されていた。

フィルム・センターのジョン・フォード監督特集上映時に、蓮實さんは淀川長治さんと対面し、淀川さんが<フォード監督というのは、知られているようでまったく知られていないのよねと喝破された>と書いている。そして、<やはりハスミさんは偉い。わざわざこれを見に来てくれたんだから>と語ったそうだ。

確かに、私はフォードをあまり知らない。フォードより5歳若い、ヒッチコックの映画についてはかなりの数を観ているが、ジョン・フォードはどうだろう。「駅馬車」、「怒りの葡萄」、「わが谷は緑なりき」、「荒野の決闘」、「黄色いリボン」 、「捜索者」。改めて並べると結構観ているが、フォードの膨大な監督作品からするとごくわずかである。そして、なによりも名監督という認識はあるが、漠然と“西部劇の人“というイメージだけであり、ヒッチコックのように多少は掘り下げようと考えたことは皆無であった。

さらに、蓮實重彦のベスト20を見ると、私の見た有名どころで入っているのは「駅馬車」と「捜索者」だけであり、「荒野の決闘」や「黄色いリボン」よりも優れた作品が数多くあると書いている。

蓮實ベスト20と私の肌合いやいかに。目についた「リオ・グランデの砦」を観た。

1950年のこの作品は、「アパッチ砦」(1948)、「黄色いリボン」(1949)に続く、“騎兵隊三部作“。特に「アパッチ砦」の主人公、Captainのカービー・ヨークは「リオ・グランデ」ではLieutenant Colonelに昇格して再登場する。そんなことは知らずに見たので、「アパッチ砦」はこれから観る。

主演はジョン・ウェイン、その妻にモーリーン・オハラの名コンビ。オハラ〜O'haraという苗字はアイルランド系で、実際彼女はアイルランドの出身だが、劇中においても、アイルランドからの移民にまつわるセリフが登場する。ジョン・フォード自身もアイルランド移民である。

さて、蓮實さんはこの作品について、<通俗的な挿話の連鎖にもかかわらず、きわめて重要な作品であるとわたしはここで力説したい>と書いている。

リオ・グランデは、アメリカとメキシコの国境を流れる川。ちなみに、このメキシコ名がリオ・ブラボーで、川を挟んでメキシコ側を、ジョン・ウェインが、“Rio Bravo side“と呼んでいた。

彼が演じるヨーク率いる騎兵隊が、川の側の砦に駐屯しており、そこに長年離れていた息子が入隊。それを追って、妻(オハラ)がやってくる。隊を率いる立場として、息子にはより厳しく接するヨークだが、時折見せる父としての表情が印象的である。

確かに“通俗的“な設定であり、展開されるドラマもいわゆる“西部劇“的なものであるのだが、清々しく気持ちよく観ることができる。音楽も重要な要素になっており、ゆったりと身をゆだねられる。「黄色いリボン」の有名なテーマ曲が流れるシーンもあった。

助演のベン・ジョンソンらが見せる、馬の立ち乗り、それも2頭をあやつるシーンや、先住民との戦闘シーンなど、娯楽的要素も素晴らしく、まさしく私のイメージするジョン・フォード作品である。

蓮實さんが大著を世に出したくらいだから、ジョン・フォードの世界はもっともっと深いのだろう。その入り口としては、偶然に良い作品を選んだと思う。蓮實さんのベスト20は時系列で並んでいるが、「リオ・グランデ」の次が1952年の「静かなる男」、やはりウェイン/オハラのコンビ。これで、フォードは4度目のアカデミー監督賞を受賞する。

「ジョン・フォード論」、本の帯に<「古典的な西部劇の巨匠」というレッテルからジョン・フォードを解き放ち>と書いてある。まだ買っていないのだが、どうしようか。


今朝、新聞のラテ欄を見ると、本日(9月23日)午後、NHK BSで「リオ・グランデの砦」が放送される。私は、配信で観たのだが、間に合う方はどうぞご覧下さい

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