「初代 桂春団治」と藤山寛美〜「おちょやん」最終週

「おちょやん」が最終週に入った。月曜日(5月10日)の放送では、天海一平(渋谷天外)、起死回生の作「初代 桂春団治」の上演場面が流れた。初代の桂春団治は、大正期から昭和初期に活躍した落語家で1934年に他界しているが、その人気と逸話をもとに、長谷川幸延という作家が「小説 桂春団治」という作品を1951年に発表した。ドラマに映る台本にも、原作者が書かれていた。

これがきっかけとなり、渋谷天外が芝居に仕立て上げるなど、初代春団治を題材にとった作品が登場する。春団治のことを知らなくとも、♫酒のためなら、女も泣かす♫の歌詞で有名な、都はるみと岡千秋が歌う “浪花恋しぐれ”を知っている人は多いだろう。

ドラマでも取り上げられていた通り、「桂春団治」は新喜劇の当たり狂言となり、小林信彦「日本の喜劇人」(今月、「決定版 日本の喜劇人」が発売される)によると、<東京の人間が新喜劇を見直したのは、おそらく「桂春団治」(昭和27年に評判になる)あたりからであろう>と書かれている。

また、同書は天外のシュールなギャグとして、この舞台のラストシーンを紹介している。<春団治が車夫姿の死神のひく人力車にのって花道にかかる。舞台の奥で、死にかかった病人(春団治)に医者がカンフル剤を打つと、人力車はずるずるとあと戻りしてしまう> ドラマでも、この場面が再現されていた。

そして、「桂春団治」は、新喜劇を担うスターを産む。前田旺志郎扮する松島寛治、モデルは藤山寛美である。「日本の喜劇人」では、<寛美の名が一部で知られたのは、『桂春団治』初演における酒屋の阿呆な丁稚役である>と書かれ、その後、寛美は読売テレビの番組で一般的な存在となり、<阿呆役者というキャッチフレーズがついてまわる>。

鶴亀新喜劇ならぬ、松竹新喜劇は、天外・寛美の2枚看板の時代へと移っていく


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