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“ファシズムと戦争の犠牲者の思い出に“〜ショスタコーヴィッチ「弦楽四重奏曲 第8番」

身内の宣伝も兼ねて〜

次女の所属するスコットランド室内管弦楽団(SCO)は、コロナ禍が終息した今も、デジタル配信を行なっている。離れた地にいる妻と私にとっては、彼女の演奏が聴ける貴重な取り組みである。

新年、配信されたのは次女を含むオーケストラのメンバーで構成されたカルテットによる、ショスタコーヴィッチの「弦楽四重奏曲 第八番」である。ショスタコーヴィッチの作品の中で、弦楽四重奏曲は重要な位置を占めるが、この八番は中でも有名な楽曲である。

この曲は、“ファシズムと戦争の犠牲者の思い出“に捧げるとされているが、SCOのPromgramme Noteを見るとそんな単純なものでもなかったようだ。

ショスタコーヴィッチはスターリンの独裁下のソ連において、監視と批判に耐えてきた。その恐怖は1958年フルシチョフがソ連トップに就任しある程度和らいだが、同時に政権を支持すべしという圧力があった。そしてショスタコーヴィッチは1960年、54歳で共産党に入党する。

その年、彼は映画「ドレスデンの五日間」の音楽制作のために、ドイツに行く。第二次大戦下、連合軍の爆撃で廃墟と化したドレスデンを舞台にした映画である。そこで、この曲は作られた。

三日間で作られた曲は、公式の献辞に加えて、自分自身に捧げられた個人的な作品でもあった。彼は友人に、「自分が死んでも、誰かが私の思い出に捧げて四重奏曲を書くことなどまずないだろう。だから自分で作曲する」と伝えている。また、「共産党入党は道徳的死を意味し、あとは肉体的な死あるのみ」とも。

こうした複雑な感情が込められたこの曲は、短い楽章で構成されているが、胸を突き刺すような作品である。残念ながら過去の思い出とはなっていない「ファシズムと戦争」を想起させ、それに対しての我々の立ち位置を自問自答させる。普遍的なテーマであるとともに、個人の心の中に迫る音である。

SCOの配信は、この曲の演奏を映画的に仕上げており、この曲の魅力を一層高めていると言え、難しいことは抜きにして、“格好良い“。

2月7日まで配信されているので、ご興味持たれた方は是非ご覧頂ければと思う。

なお、第二楽章で流れる印象的なおどろおどろしいフレーズは、1944年に作られた、「ピアノ三重奏曲第二番」の最終楽章に通じる。こちらもお勧めの作品である。



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