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SWIFTって何?(最終回)〜海外送金「指示」を合理化

昨日、テレックスによる「指示」は、指示の文言をタイプ打ちしていたと書きました。これができるようになるよう、私は新人で配属されまずはタイプ学校に行かされました。2週間通い、ブラインド・タイプを学んだのです。これが、その後極めて有用なスキルとなったのは、言うまでもなくありません。

さて、この送金「指示」以外にも、様々な通信が世界の銀行間で行われています。それを全てタイプ打ちするのは流石に非効率です。そこで1973年、239の銀行が国際銀行間通信協会(SWIFT)を設立します。日本が加盟したのは1981年、私が仕事を始めたのは1984年です。

テレックスは電話や今のインターネットと同様に、公に開かれたネットワークです。まずSWIFTは銀行間のみに閉じられたネットワークを構築します。この協会に承認された銀行のみが加入でき、通信サービスを利用できるのです。

さらに、電文をフォーマット化します。 昨日の「指示」を再掲します;

大日本銀行からの「指示」
1.マンハッタン銀行あて:ブロンクス銀行のボリショイ銀行口座に1000ドル送金せよ
2.ボリショイ銀行あて:ブロンクス銀行のおたくの口座に1000ドル入れたので、おたくのモスクワ支店“金なき子”のドル口座に1000ドル入金してくれ

これをフォーマット化すると、こんな感じです(実際のSWIFTとは異なります)

指示1
大日本銀行よりマンハッタン銀行宛

メッセージタイプ100
A: USD(通貨)
B:1000.00(金額)
C:ブロンクス銀行(送金先銀行)
D:ボリショイ銀行(入金する口座名)


指示2
大日本銀行よりボリショイ銀行宛

メッセージタイプ200
A: USD(通貨)
B:1000.00(金額)
E:ブロンクス銀行(ドルを入金した場所)
F:金なき子(最終受取人〜ボリショイ銀行の口座名義)

A〜Fはフィールド名です。当時、私はSWIFTの端末でメッセージタイプを選択し、各フィールドに手で入力していました。

お分かりになる通り、このようにフォーマット化すれば、「指示」がデータ化しやすくなります。1984年、インターネットはもちろんありませんが、オフィスコンピューターの導入が進み始めた時代です。

また、安全性については、テレックスで使われた暗号コードも導入されましたが、ネットワークを接続するために各銀行が導入したコンピューター上で照合・アップデートが行われました。

こうしてSWIFTは、送金事務に関わらず、銀行間の様々なメッセージング・サービスとして拡大し、加盟対象も銀行から証券などの金融機関に広がり、金融通信のデファクト・スタンダートとなったのです。

従って、ロシアの銀行が利用できなくなるというのは、大きなダメージで送金を含む銀行業務がストップする事態が想定されます。

ただし、ここまでの説明の通り、あくまでも「指示」の手段であって、それはSWIFTに限定されたものではありません。中国が独自の仕組みを構築するというのは、代替手段を確保するための行動です。

また、あくまでも対象はロシアの銀行なので、例えばロシアの銀行がSWIFT以外の手段を高じて、友好国であるベラルーシに、「ちょっとSWIFTから締め出されちゃったから、代わりにイギリスにいるロシア人A氏にお金送ってくれない。代わりのお金は、おたくの銀行がロシアに持っている口座に入れておくから」 などと、第3国を迂回させることも不可能ではありません。

ロシアへの経済制裁において、SWIFTからの締め出しは一定の効果はありますが、同時にロシア国外にある金融資産を凍結し、動かせなくすることも重要です。

戦況はやや膠着状態ですが、ボディブローのように効いてくるはずの経済制裁、効果が期待されます

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