見出し画像

アンソニー・ホロヴィッツ「ヨルガオ殺人事件」〜楽しみは3倍

合間をぬいながら、未だに昨年末発表のミステリー・年間ベスト作品にランキングされたものを読んでいる。海外作品では、各所でベスト1に輝いたアンソニー・ホロヴィッツの「ヨルガオ殺人事件」を読んだ。

様々な場所で、本作については語られているので、多くを書くつもりはないが、シリーズ前作「カササギ殺人事件」同様、小説の中に、登場人物が書いたもう一つのミステリー小説が入る、入れ子構造になっていて、一粒で二度美味しい“アーモンドグリコ”のようになっている(わっかるかなぁー)。

さらに、ミステリー好きがニヤッとしそうな細かな遊びが散りばめられ、まさしく名人芸の小説となっている。私にとって、さらに嬉しかったのは、小説の舞台となるホテル<ブランロウ・ホール>が立つのが、イギリスのサフォーク州のイースト・アングリア地方であること。

二人の娘が子供の頃、イースト・アングリアにある子供のための室内楽コースに参加しており、その送り迎えに、年に最低4回はサフォーク州の村まで往復、ついでに周囲を観光したこともある。

主人公がスーザン・ライランドが、ロンドンからホテルに向かう、<わたしはイプスウィッチを迂回してA 12号線を走り、右折したらウッドブリッジに向かう交差点もそのまま直進した>。まさしく、我々が車を走らせていたルートである。

その際に訪れた場所、オールバラ(Aldeburgh)やスネイプ(Snape)も登場する。オールバラは、作曲家ベンジャミン・ブリテンゆかりの海沿いの町。そこから川を少し登ったところにあるのがスネイプで、素晴らしいコンサート・ホールを含むスネイプ・モルティングズという施設がある。「ヨルガオ殺人事件」の登場人物は、このホールでオペラ「フィガロの結婚」を鑑賞する。

サフォーク州というと、画家コンスタブルの出身地でその風景が多く描かれている。殺人事件とは無関係にも見える地方を舞台にしているのも、憎い演出である。また、前述の小説内小説に関しては、イギリス内の架空の場所を舞台としており、この辺りもよく計算されている。

アガサ・クリスティへの“オマージュ”とも言える、技巧を凝らした作品、ミステリー・ファンなら誰しも楽しめる小説だが、このような個人的な思い出のおかげで、私にとっては、“一粒で三度美味しい”小説だった


*スネイプ・モルティングズを中心に開催される、オールバラ・フェスティバル



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?