映画「トキワ荘の青春」〜まんが道の向こう側(その2)
寺田ヒロオ、真面目で折り目正しく、面倒見が良い。トキワ荘に住むマンガ家は、みな彼を頼りにする。加えて、マンガ界の発展を考え、リーダーシップを発揮する。こんな理想的な人物を、映画「トキワ荘の青春」で本木雅弘が演じる。
寺田ヒロオは子供のためのマンガ家として成功する。彼の描きたいものは、子供が素直に楽しめる明るいマンガである。一方で、彼の周囲には新しい才能が動き始める。また、マンガの読者も変化していき、マンガの可能性が広がっていく。寺田は自分の理想とするものと望まれるものとのギャップ、マンガ界に打ち寄せる大きなうねりに戸惑う。したがって、市川準監督の本作は静かに淡々と進む。
新しい才能の一人は赤塚不二夫。赤塚は編集者からこう言われる。「君はあきらめた方がいいかもしれないね マンガっていうのは個性だと思うんだ」、そして他のマンガ家の模倣しか出ないのであれば、田舎へ帰った方が良い、「才能ってのはそれほど厳しいものだという気がするよ」と。
落ち込む赤塚に寺田は、「なにが書きたいか整理していけば、自然と自分が見つかるよ、きっと」と慰める。そして、一食分に過ぎないからと言って、小遣いを渡す。
つげ義晴に対しては、つげの作品はよく読んでいると寺田は言い、「自分の傷をマンガで見せることって必要なのかな いや僕のは少し幼すぎるんだけどね」と続ける。
石森章太郎のことを心配する彼の姉に対しては、大丈夫だと励まし「本当の意味でマンガに市民権を与える人になるかもしれない 僕たちの書いてきたものはちょっと弱いから」 。(余談だが、石ノ森の姉は一時期トキワ荘に同居し、住民の世話を焼くのだが、病におかされ早逝する。その影響が垣間見られる石ノ森作品もある)
後にマンガの世界を変革する彼らに対しかける言葉は、寺田自身に向けたものでもある。こうした才能の台頭と、去る者、進む道を変える者を対比することによって、寺田の悩みが浮かび上がってくる。
編集者の要求にも応えられない寺田は、つげ義晴にこう話す。「古いんだよ俺のマンガって よく分かってるんだ でも子供たちのこと考えて書きたいから」
つげ義晴は寺田のマンガについて、「恥ずかしいほどいい人ばっかり出てくる」と評し、その“恥ずかしいほどいい人“である寺田自身は、不器用で頑固であり、結局“まんが道“から外れていく。
でも私は知っている、またこの映画を観た人は知ることになる。寺田ヒロオがいなければ、マンガ界のレジェンドたちが歩く“まんが道“はできなかったことを
献立日記(2021/12/9)
鯛とキャベツの蒸し煮
蒸し鶏 ホットもやし添え
菜の花からしマヨネーズ
ごぼうの軽やかサラダ
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