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寄席の宝がまた一つ〜紙切りの名人、林家正楽逝去

“紙切り“という芸は、日本だけのものなのでしょうか。芸術性・即興性、話芸としての側面。改めて、凄い芸能だと思います。

その第一人者である林家正楽さんがお亡くなりになりました

私が最後にその高座に接したのは、2022年の明治座でした。記念公演として開催された講談の神田松鯉一門会に花を添えられました。最近の寄席通いは、落語芸術協会主催の芝居ばかりだったので、落語協会所属の正楽さんの出番はありませんでした。寄席の姿をしばらく拝見していなかったのが、今更ながら残念に思っています。

正楽さんの高座に最初に接した時に感じたのは、軽快な芸の裏側にある一種の狂気のようなものでした。ちょっと危ないおじさんの空気です。もしかしたら、“芸術家“としての側面が、彼から発信されたいたのかもしれません。

紙切りは、観客からのお題を受けて即興で切る芸です。正楽さんの名人芸は、どんなリクエストでも切る。それは紙を切る技術に加えて、題材の切り口を自在に変換する発想力です。例えば、あくまでも私の下手な思いつきですが、「キックバック」という注文があったとします。正楽さんは、「お金が降るパーティー会場のワンシーン」を切るように思います。

基本的には観客に寄り添う芸でありながら、どこか突き放した感じがある、それは正楽さんの狂気なのかもしれませんが、そんな高座が好きでした。

古今亭志ん輔の独演会だったと思いますが、いつもの寄席に比べると長めの持ち時間、最後に美空ひばり「川の流れるように」をBGMに、事前に切ってあった“パレード“の光景をスクリーンに映し出す、長く続く作品“大ネタ“を見たことは、私の財産です。そこには、“芸術家“林家正楽があったようにも思います。

コロナ禍の頃、さまざまな配信企画がありました。その一つ、橘家文蔵が「文蔵組落語会」を配信、その中の林家正楽さんの高座がアップされていました。視聴者がツィッターで注文したお題を切ったりもします。こんな映像が残せた、コロナも悪いことばかりではなかった。

寄席の宝が、また一つ失われました。林家正楽さん、ご冥福をお祈りします



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