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多彩な芸を堪能した一夜〜神田白山主任の新宿末廣亭7月下席夜の部(その1)

新宿末廣亭の7月下席は、後段の神田伯山、落語の三遊亭遊雀が主任を五日ずつ分け合う興行。こうした人気化する芝居について、チケットぴあなどを経由した前売りが始まっている。ふらりと寄れるのが寄席の良いところ(本席も当日券あり)だが、かつては午前中に整理券を求めて並ぶなど、神田伯山がトリをとる時は大変だった。それを考えると、こうした前売り制も、時代の要請、伯山がつくった新しいスタンダードだと思う。

7月26日、私の予約チケットに私に割り当てられた席は最前列。通常は、空いていても決して座らない場所。ボンボンブラザースの帽子投げに参加させられるのではと恐れ、当日の顔付けを確認したら、この日は奇術の北見伸。ほっとした。

いきなり面白かったのが、前座で上がった浪曲の玉川わ太(わだい)。玉川太福の弟子だが、「三味線がないので落語を演ります」と言って「子ほめ」。これが、下手な落語家の前座よりも上手かった。

二つ目が講談・噛んだ神田松麻呂。「自分の仕事は、『熱中症予防のため、適宜水分補給してください』、『携帯電話、特に最後の伯山が上がる際は、必ず切ってください』、この2点を伝えること」と強調し、「講談初めて生で聴く方は?」と尋ねると、何名かの手が上がった。「一番遠くから来た人?」と問うと、私と同じ最前列の女性が「北海道」。素晴らしい! 演目は「寛永宮本武蔵伝〜灘島の決闘」。いわゆる、巌流島における佐々木小次郎との戦いを、5分で読み終えた。

太神楽の春本小助・鏡味小時に続いて、春風亭昇羊。昇太門下の二つ目で、顔も名前も知っていたが、生の高座は初めて。これが、前半の収穫だった。「自分の役割は伯山ティービィーのカメラマン。マンネリ化が進んでいるので、監督からのリクエストが厳しい」としながら、「自分は一人っ子。一人遊びが好きだった」とネタの伏線になるマクラを振って入ったのが「二階ぞめき」。吉原をひやかして歩くのが大好きな若旦那、放蕩を案じた番頭が、家の二階に“吉原“の街並みを造るという噺。古今亭志ん生が得意とし、立川談志らも愛した作品だが、なかなか現代の聴き手には通じづらい。それを、“イケメン“で若旦那風の昇羊が見事に演じた。満員の伯山の客に、このネタをぶつけただけでも意欲を感じる。口跡も良く、華がある。まだ33歳、将来が楽しみである。

交互出演、この日は三遊亭萬橘。ちょっと、狂気を感じさせる萬橘が演じたのは「富士詣り」。続いて、コント青年団。私は結構好きな二人である。

伯山の姉弟子、神田阿久鯉がいつもの通り安定の高座で「水戸黄門記〜火吹き竹の諌め」を読んだ後は、浪曲の玉川奈々福が上がる。女流浪曲師で、急逝した玉川福太郎の弟子。落語芸術協会に入り、寄席に出るようになった。浪曲、10年くらい前から本格的に聴き始めたが、音楽と台詞、日本版ミニオペラは、後世に残すべき芸能である。

宮田陽・昇の漫才。私のスタンダードからすると一流漫才師であり、東京漫才会の重鎮。寄席の世界に留まっていて、もったいないと思うが、それが良い。

この後、本来ならば伯山の師匠、人間国宝・神田松鯉の出だが、足をくじかれたそうで休演。それでも代演が瀧川鯉昇なので文句はない。

いつもの様に、独特の空気感と間で、場内を鯉昇ワールドに持ち込む。季節のネタとも言える「うなぎ屋」。うなぎ割きの職人が不在で困っている主人の店に、乗り込む二人の男。一人が慣れない手つきで鰻をつかむのがクライマックス、それを体現するのが見どころの一つだが、鯉昇が二つの手で表す鰻の動きに観客から新鮮な反応が。末廣亭は、良い空気で中入りに入った

お中入り〜続く


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