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手の中の音楽14〜トム・ウェイツの「Small Change」と"Jersey Girl"(その1)

9月26日放送の「村上ラジオ」は、ジャズピアニスト/ボーカリストのモーズ・アリソンの特集だった。村上春樹は、<おそらくご存知ない方のほうがずっと多いと思います>とし、<今日、覚えてください>と紹介した。

私も知らなかったが、ブルースをベースにしながらも、土着臭のない洗練された音楽で気に入った。放送の中で、村上さんは、<ほかに類を見ない音楽>で、<音楽家の中にもトム・ウェイツとか、ヴァン・モリソンとか、ピート・タウンゼントとか、ジャック・ブルースとか、ベン・シドランとか、熱烈なモーズ・アリソン・ファンがいます>と語っていた。

トム・ウェイツという名前が出てきて、彼の音楽を思い描いたが、こちらも“ほかに類を見ない音楽”である。ロックあり、ジャズあり、ラップあり、様々なスタイルをパッケージにした作品は、トム・ウェイツならではである。ただ、7枚目のアルバム「Swordfishtrombones」あたりから、アヴァンギャルドさが尖っていき、徐々に私は離れていった。

最初の6枚の中で、よく聴いた一枚がサードアルバム、1976年の「Small Change」である。後年、トム・ウェイツは、<多分「Small Change」までは自分の作品に完全に自信を持てなかった。あの作品で物語を音楽に乗せた>と語っている。(「Tom Waits on Tom Waits」より拙訳)

当時のトム・ウェイツは酒浸りの生活であり、その上、インスピレーションを得るために、ロスアンゼルスの路上生活者やジャンキーが巣食う、スキッド・ロウという地域に足を踏み入れる。手には、紙袋に入れたライ・ウイスキーである。

2枚目のスタジオアルバム1974年「The Heart of Saturday Night」も素晴らしい作品だが、わずか2年の間にトム・ウェイツの声は大きく変化し、太いダミ声となっている。そこには生活の跡が感じられるが、それと共に、彼の歌はグッと深みを感じるものにもなっている。

したがって「Small Change」が描く世界は、荒んだ生活、酒場、音楽、そして暗闇の中に少しだけ見える明かりである。それは、アルバムカバーにも映し出されている。

トム・ウェイツは、自信をもたらした曲として、このアルバムの“Tom Traubert's Blues"、“Small Change“、“I Wish I Was in New Orleans“を挙げている。“Small Change“は、朗読を音楽に乗せたような、独特のスタイルの1曲である。

ロッド・スチュアートもカバーした、“Tom Traubert's Blues“は美しい曲だが、次のように始まる〜

'ボロボロになり、傷ついた、だけど月のせいじゃない
今になってツケが回ってきた
明日会おうぜ フランキー、2−3ドル貸してくれないか‘

明日も、「Small Change」の世界をもう少し


献立日記(2021/10/9)
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