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ジェーン・カンピオンが描く人同士の“化学反応“〜「パワー・オブ・ザ・ドッグ」

アカデミー賞は、純粋な作品や技術の良し悪しだけで選ばれているわけではないということは、共通認識として出来上がっている。したがって、予想の段階で、今の世相、LGBTQ、ジェンダーバランス、人種問題などが賞獲得の背景として取り沙汰される。

また、長年映画界に貢献した人に取ってもらいたいという、アカデミー会員の思惑も絡んでくる。こうした見方をすると、1994年の第66回アカデミー賞は、スチーブン・スピルバーグのためにあったと言える。

「ジョーズ」や「E.T.」といったヒット作を作り、「カラー・パープル」などのシリアス路線も世に出しながら、アカデミー賞とは無縁だったスピルバーグが「シンドラーのリスト」を抱えて挑んだのが、第66回アカデミー賞で、見事に作品賞・監督賞を獲得する。

この時の対抗馬が、カンヌ映画祭で最高賞パルムドールを受賞した「ピアノ・レッスン」、監督はニュージーランドの女性監督ジェーン・カンピオンだった。スピルバーグの影で、この作品は脚本賞・主演/助演女優賞にとどまる。(もちろん、それだけでも素晴らしいのだが)

そして30年近くの時を経て、カンピオンは「パワー・オブ・ザ・ドッグ」でオスカーに挑む。ヴェネチア映画祭で銀獅子賞、ゴールデングローブ賞や英国アカデミー賞で作品賞/監督賞を受賞し、満を持してのノミネートである。

まずはジェーン・カンピオンは監督賞を受賞。この流れは、第94回アカデミーはカンピオンの回だと確信した。しかしながら、作品賞をさらったのは「コーダ あいのうた」だった。「コーダ」の良い評判は各所から聞こえて来ていたが、私は未見だった。

「パワー・オブ・ザ・ドッグ」はNetflix配信作品、授賞式までには観ようと思っていたが間に合わなかった。幻のオスカーとなった作品、ようやく観た。

人と人が交わると、ある種の化学反応が起きることがある。その反応は良いものもあれば、悪いものもある。それぞれが持っている資質が出現することもあれば、変化することもある。

モンタナ州で牧場を経営する、フィル(ベネディクト・カンバーバッチ)とジョージ(ジェシー・プレモンス)の兄弟。ジョージは、子持ちの未亡人ローズ(キルスティン・ダンスト)と結婚する。

しかし、フィルはローズとその息子、大学に行こうとするピーターを嫌悪する。そして、その3人の間には様々な化学反応が起きていく。それは良い変化も見えるが、闇が現れることもある。

「ピアノ・レッスン」、細かいことは覚えていないが、静かで美しい映画であったように記憶する。この映画のトーンもそれに通じるところはある。ただ、この「パワー〜」が焦点を当てるのは光だけではなく闇である。

その闇は何なのか、私にはまだはっきり見極められていない。ただ、それは誰でもが心の奥底に秘めているものではないか。そして、それは何かの拍子に“化学反応“によって出現する可能性があるように思う。配信映画の良いところ、再び見直せること、ちょっと怖いものをもう一度

蛇足だが、映画の中で結婚するプレモンスとダンストは、「ファーゴ」のTVシリーズ(傑作!)のSr.2に夫婦役で主演していた。そして、その後、本当に結婚する。


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