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コロナ禍の下、読むべきマンガ〜よしながふみ「大奥」

よしながふみのマンガ「大奥」の最終巻が今年の2月発売された。連載が始まったのは2004年で、読みたかったのだが、完結するまでよそうと思い、ずっと寝かせていた。結局、17年近くおあずけ状態となったが、遂に読み始めることができた。

全19巻、素晴らしい世界を、よしながふみは創り上げた。

時は徳川の世、“赤面疱瘡(あかづらほうそう)”という疫病が流行。この病は、若い男性のみが感染し、極めて高い致死率というもの。結果、男子の人口が激減し、男女の役割が逆転することに。徳川家においても、三代家光の時代から、将軍職は女子が継ぐものとなる。そして、大奥は女性の世界ではなく、男性で構成される。

これが、このマンガの世界観である。繰り返しになるが、連載開始は2004年。その時点で、ジェンダーというテーマのみならず、疫病を題材に持ち込んでいる。

最初の数巻は、将軍やその家臣が女性、大奥が男性という設定に慣れず、頭を整理しながら読み進む必要があったが、面白いことに徐々にその世界に慣れてきて、違和感がなくなっていく。これが、“ニューノーマル”ということだろう。

ネタバレになるので、あまり詳しくは書かないが、徳川幕府も疫病を放置することはしない。ここに、政治と科学の戦いが出現する。コロナ禍の状況を予言するかのようである。

ジェンダーについては、将軍という男の世界、大奥という女の世界に、異性の視点を入れることにより、それぞれの役割に絡む悲喜劇を深掘りしていく。

そして、何よりも、よしながふみの手が紡ぎ出す、いくつかのポイントにおける感動的な場面。敢えて一つ挙げると、十四代将軍徳川家茂と正室和宮の造形が素晴らしい。

男女逆転というフィクションの世界において、史実を一定程度消化しながら、大奥の終焉まで描き切った、名作である。

この作品により、よしながふみは、「きのう何食べた?」と「大奥」という2つの代表作を獲得した。次は、何を提供してくれるだろう


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